ただし根本的な問題は、海外で通例の合作協定を、日本は締結していないこと。それが共同製作を目指す者の足枷(あしかせ)となっている。「協定は税制優遇の問題を含むため、WTO(世界貿易機関)の協定に抵触する恐れがある。しかし解決すれば伸びしろがある」と筆坂さん。

●若い世代の活躍阻む壁

 昨年のカンヌ映画祭でも日仏合作の映画が注目された。「ある視点」部門で審査員賞を受賞した深田晃司監督の「淵に立つ」だ。プロデューサーはフランスを拠点に活動する澤田正道さん。本作は舞台も俳優も言語も日本。フランス資本が入っても、日本人である深田監督の鋭い人間観察眼という個性は色濃くにじむ。むしろその個性こそが、作家性を重んじるフランスの製作パートナーに気に入られた。だが、締結できれば海外で申請可能な助成金がぐっと増える協定締結が進まない。澤田さんは嘆く。

「僕もフランスの協力のもとに書類を作り、今村昌平監督、近年は河瀬直美監督とともに協定締結を目指し働きかけたが、事態は変わらなかった。日本はアメリカの属国に近い。たとえ文部科学省、経済産業省が承諾しても、外務省が動かない」

 中国・韓国を含む世界の多くの国がフランスと結んだ協定を、なぜか日本だけが結べぬ不可解さ。この協定さえ結べれば共同製作のブレークスルーになるのだが、現状は合作で他国に差をつけられっぱなしだ。

「今は深田さん世代が日本で活躍できる場がない。せめて海外の映画祭を糸口にできれば。日本は次世代の監督を育てるという考えが皆無だ」(澤田さん)

 監督の活躍の場を広げ、文化の多様性のために行政が決定を下せるか。邦画は岐路に立たされている。(映画ジャーナリスト・林瑞絵)

AERA 2017年3月13日号

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