就職ならトヨタ系

 例えば昨年のこと。仲間たちと本・大分復興支援チャリティーイベントを大須のお寺で開催すると、地元の人たちが200人ほど参加。

「名古屋人の心意気を感じました」

 と、中島さんは笑顔を見せる。

 都会なのに、田舎。閉鎖的なのに、外の人を受け入れる。そんな名古屋人を生み出す素地にあるのが、製造業が支える名古屋圏の豊かな経済だ。

「名古屋圏はトヨタ系企業をはじめとして、多くの職があります。そのうえ土地や物価も東京と比べて安いので、豊かな生活ができます」

 と、名古屋近郊在住で、就活支援やコミュニティー活性化の研究を行っている大学教員の今永典秀さん(35)は説明する。

 名古屋で生まれ育った今永さんは大学卒業後、東京の大手金融機関に就職したが、結婚を機にトヨタ系企業に転職し、名古屋に戻ってきた。その後、通っていた社会人大学での地域活動に取り組んだことをきっかけに大学に移った。

「妻は名古屋で仕事をしているし、家族は名古屋にいる。それなら、自分が転職をして名古屋へ戻ろうと思いました。名古屋のほうが経済的にも生活の面でも暮らしやすい」(今永さん)

 刈谷市で生まれ育ったYさん(34)は名古屋大学に進学し、新卒で地元のトヨタ系の企業に就職。大学は経済学部だが、「企業に就職するなら、トヨタ系企業一択だった」と話す。Yさんが育った刈谷市には、デンソーやアイシン精機、豊田自動織機といったトヨタ系の企業がたくさんある。

「会社といえばトヨタ系と、子どもの頃から考えていました。地元の高校の友達は、6~7割がトヨタ系企業で働いているのではないでしょうか」(Yさん)

●家訓は「貯蓄せよ」

 愛知県の製造業従事者数は全国1位。製造業は大手だけではなく中小企業などの裾野が広い。そのため、家業を継ぐ人が多いのも、名古屋の特徴だ。

「名古屋に帰ってきて、家業を継いでほしい」

 名古屋市内の名門私立高校を卒業後、慶應義塾大学に進学、大手自動車メーカーに就職して東京で暮らしていた男性(38)は10年前、機械部品商社を経営する父親に、そう請われた。

「兄貴が家業を継ぐと思っていましたが、それでもいつかは名古屋に戻ると思っていました。友人も家業を継ぐ人が多い」
●合コンは割り勘

 経済的に豊かである一方で、名古屋人は「ケチ」と言われることが多い。なぜか。

 都道府県別貯蓄現在高(2人以上の世帯)で、愛知県は全国4位。貯蓄の主な目的はマイホーム。前出の中島さんは、

「家計簿のコーナーに寄せられる8割くらいが、マイホームのために貯蓄をしたいという相談です。20代や30代前半で1千万円の貯蓄がある人もいますね」

 と話す。

次のページ