経済専門家のぐっちーさんが「AERA」で連載する「ここだけの話」をお届けします。モルガン・スタンレーなどを経て、現在は投資会社でM&Aなどを手がけるぐっちーさんが、日々の経済ニュースを鋭く分析します。
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この号が出るころには既に大統領就任式も終わり、名実ともにトランプ大統領が誕生していることになります。
何かと話題が多い政権ですが、金融政策に関してはそれほど目新しいことを言っているわけではありません。大変だ!という報道が多いのですが、大変なのは彼の「性格」であって、こと政策については大変だ、と言われるようなことは何一つありません。
特に経済政策については、減税とインフラ設備投資を中心に公共投資を増大させるのが骨子のようですから、これは1980年代のレーガノミクスの焼き直し。ですからこれで喜ぶ経営者も多くいるはずです。しかし、その後何十年も財政赤字に苦しんだことは歴史的事実で、いわば「焼き畑経済政策」ですね。
問題だと思われるのは彼の数字の理解度が極めて低いこと。どうでもいいと思っているフシもありますが、どうでもいいわけはありません。
例えば歴代で最も雇用を生み出す大統領になると発言していますが、既に失業率は4.6~4.7%に落ち着いており、ほぼ完全雇用状態。その証拠に2015年までは月平均20万人以上の雇用者数の増加があったのに、16年はほぼ18万人程度になっています。オバマ大統領は雇用者増については歴代3、4位の大統領に位置するわけですが、ここからこれを抜くのは事実上不可能です。
また、先日の記者会見でも、トランプ氏は「現在9600万人のアメリカ人が職を求めているにもかかわらずそれを得ていない。みんなわかっているのか? これが本当の数字なのだ」と発言し、早速アメリカのメディアに誤りを指摘されていました(日本のメディアがまったく報道しないのはなぜなのか、よくわかりませんが)。この9600万人という数字は16歳以上のすべての不就労人口のことであって、就業不能者はおろか、主婦、学生、既にリタイアしている人まで入ってしまっています。実際この年齢ゾーンで求職している人は雇用統計から見ると600万人程度。彼の言っている数字は事実と9千万人も違うんですよ!!
また、言うこととやっていることが違うというのも彼の特徴で、既得権者から政治を取り戻すと言いながら、実際に閣僚に指名したのはいわゆる既得権者ばかりです。これはなんでしょうか?
※AERA 2017年1月30日号