「社会の中の新しい価値観と古い価値観の間で親自身が揺れ動き、矛盾したことを言ったり、過剰に干渉したり。一見愛情深く育てているように見えますが、支配されているように感じてしまう子どもも少なくない。そしてその支配は、就職結婚、育児にまで及ぶことが多いのです」(香山さん)

 ところが、そんな親が老いて弱った途端に頼ってきたり、認知症などでミスを繰り返したり。すると、頭では仕方ないとわかっていても異様に腹が立ってしまう、というのだ。

「ただでさえ親が老いていくことには喪失感があり、そこに『散々支配してきたくせに今さら何よ!』という根深い感情が複雑に絡み合って、怒りやイライラに変わる。でもしばらくすると、そんな自分は冷たいんじゃないかと自らを責め、逡巡して苦しむのです」(同)

●矛盾して当たり前

 もし介護ということになれば、こうした感情の揺れに加え時間も体力も消耗し、介護うつになる危険性も。ところが、この世代の親は介護施設の利用や、ヘルパーなど他人を家に上げることに抵抗がある人もまだまだ多い。さらに、自身が姑で苦労したため「私はいい姑でいよう」と息子の嫁に遠慮しがちなのも、この世代の母親の特徴だ。結果、冒頭のA子さんのように実の娘の負担が大きくなる。

 実は香山さん自身、北海道に一人で暮らす84歳の母がいる。

「医師としては患者さんにアドバイスできるのに、娘の立場になると冷静になれなくて」

 と苦笑する。母は「いつもありがとう、助かるわ」と殊勝な態度だが、ときどき支配的な顔がのぞくという。

「『その服、変ね』とか、嫌なことを言うんです。ついカッとして『何よ、勝手にすれば!』とイライラ(笑)」(香山さん)

 自身の経験や感情を踏まえ、親との向き合い方について香山さんはこう助言する。

「親への感情は、好きや嫌い、憎いといった一言では言い表せない多層的なもので、その時どきに万華鏡のようにさまざまな感情が噴出する。だから矛盾して当たり前と割り切りましょう。そのうえで、趣味や友人との付き合いなど自分自身の生活を充実させることに心を砕く。親から感情を切り離す時間を意識的につくることが大切です」

(ライター・中津海麻子)

AERA 2017年1月23日号

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