アエラにて好評連載中の「ニッポンの課長」。
現場を駆けずりまわって、マネジメントもやる。部下と上司の間に立って、仕事をやりとげる。それが「課長」だ。
あの企業の課長はどんな現場で、何に取り組んでいるのか。彼らの現場を取材をした。
今回は四季の「ニッポンの課長」を紹介する。
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■四季 制作部 演出管理 課長 中山隆(51)
写真は2016年9月27日に開幕したミュージカル「壁抜け男」のワンシーン。俳優は11人、公演に直接つく裏方は13人。公演にはつかないが制作に関わったスタッフは100人をゆうに超える。2015年1月に新設された演出管理に所属する中山隆=写真左=もその一人だ。
劇団四季の演目は、何年も繰り返し上演され愛されている作品が多い。俳優への演技指導は、それぞれが台本に注意点などを書き入れ、代々受け継ぐスタイル。劇団が一元管理することはこれまで、なかった。
そこで、中山と部下6人の出番である。稽古場に入り、あらゆる指示をパソコンに入力してデータベースとして管理したり、過去の上演映像にグリッド線を重ねて俳優の立ち位置を細かく分析したりするなど、作品のクオリティー維持の要となる役割を担う。例えば「アラジン」のデータは811ページ、「ウェストサイド物語」のミザンセーヌ(立ち位置の指示、道具の配置)は1746ページにもなるという。
「私にとってミュージカルは最高のエンターテインメントなんです」
今ではそう言い切る中山だが、ミュージカルとの出会いは決して早くない。埼玉大学理学部在学中は学習塾講師にのめり込み、その後DTPオペレーターやデジタル機器メーカーの派遣社員を続け、30歳を過ぎたころ。見るやその魅力に取りつかれ、毎週末鑑賞するほどに。タップダンスまで習い始めた。
1998年、34歳のときにたまたま劇団四季の求人をみつけて裏方として入団。2年目から16年間、舞台装置の機構操作を担当した。そして、現部署の創設にあたり、コンピューターの技術が役立つと手を挙げた。
今後は、新作制作のための資料収集というもう一つの業務にも力を入れるつもりだ。
「劇団四季には新しい作品を生み出す力がある。その力を最大限生かしていきたい」
観客席からは見えない仕事でも、舞台を創り上げる手応えはしっかりと感じている。
(文中敬称略)
※本稿登場課長の所属や年齢は掲載時のものです
(ライター・安楽由紀子)
※AERA 2016年9月26日号