●手渡された絵にじーん

 せっかくなので、物産館にも行ってみた。公開から4カ月、いまだ男性グループやカップルが無心で紐を編んでいる。聖地巡礼恐るべし……そう感心していると、

「はい、どうぞ」

 と一枚の紙を渡された。そこにはなんと、筆で描かれた私の似顔絵!即興で描いてくれたのは近所に住むという90歳を超えたおじいちゃんだ。趣味の畑仕事の合間にこの物産館に「出勤」しては、詰めかけた巡礼者たちを得意の絵で「おもてなし」しているという。じーん。

 物産館では、お土産品の御神酒(おみき)を入れる容器も試しにおいてみたところ「飛ぶように」売れ、市内の酒蔵では、口噛(か)み酒「風」の容器入りの日本酒も売り出して話題になっている。市も市民も商店も一緒になって、「ロケ地飛騨」をもり立てていることは、よくわかった。

 ロケツーリズムに積極的に取り組み、成功させる地域は、全国的に増えている。

 そのひとつ、神奈川県綾瀬市を訪ねた。綾瀬市役所の商業観光課や市民組織、地元企業などが一体となって、フィルムコミッション「綾瀬ロケーションサービス」を立ち上げたのは14年のことだ。新幹線や東名高速道路は横断していても、市内にはインターチェンジもなければ鉄道の駅もないという、いわゆる陸の孤島。東京都足立区の綾瀬と間違えられることも多かった。同市商業観光課の岩見照人課長は言う。

「この知名度の低さを何とかしなくてはと、官民一体でスタートしたのが、ロケとグルメによる街おこしでした」

 ロケ1号は、関ジャニ∞が主演した14年公開の映画「エイトレンジャー2」。公共施設でのロケを初めて受け入れ、市役所の応接室や市議会の議場などが劇中に登場した。

 古塩政由(こしおまさよし)市長が、

「市内には観光スポットらしいスポットはほとんどありません。その代わり商店があり、住宅があり、畑があり、工業団地がある。日常生活の場なら、すべてがそろっているんです」

 と言うように、ありふれた風景がロケ地としてかえって重宝され、綾瀬ロケーションサービス設立から約2年半で、映画やドラマなど約80件ものロケが決定する人気ロケ地に急成長した。

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