右肩上がりの時代なんてもう来ない、という話をよく聞く。本当にそうなのだろうか? 実は身近に、30年にも及ぶ「どん底」から抜け出して絶好調を迎えている業界がある。日本映画だ。2016年の日本映画界は、「君の名は。」「シン・ゴジラ」を筆頭にメガヒットが次々に生まれた。「なぜか」を取材してたどり着いたのは、小さな決断を積み重ねた末の5つの大きな決断。「AERA 2017年1月2日・9日合併号」では、その決断の一つ一つがどうなされたのかを徹底取材。ロケツーリズムや監督と俳優の人脈図など、「日本映画」を大特集。
聖地巡礼など、もはや映画は「街おこし」に必須なツールとなっている。元々はロケ隊の食事や宿泊など直接的経済効果が注目されていたが、実際は観光客増などの間接的効果のほうが大。ロケ地ビジネスを取材した。
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驚いた。何がって、飛騨のにぎわいに。JR飛騨古川駅は、北陸新幹線の富山駅から特急で約1時間半、東海道新幹線の名古屋駅から約2時間半。「OKグーグル」とかで検索して、思いつきで行ける観光地ではない。しかも、取材に出かけた日は雪もちらつく寒さだったというのに、何だかやたらと人がいた。
これぞ、2016年の新語・流行語大賞トップ10にも選ばれた「聖地巡礼」。映画やドラマ、アニメ、漫画などの舞台となった場所や景色を「聖地」にたとえ、実際に現地に出かけていくことで作品をめでる。そんな、いまどきの娯楽のことを言うらしい。
いまや全国には数千の聖地スポットがあるとされ、なかでもここ岐阜県飛騨市は映画「君の名は。」でヒロインが住む架空の町「糸守町」のイメージとなったことで知られるホットな「聖地」。駅の上の橋で映画のシーンと同じ景色を撮影していた、愛知県の男子大学生クンは言う。
「リアルで美しい映画の世界と、一緒の風景。感動しました」
かなりの数の外国人観光客も、飛騨巡礼に参入している。
「台湾では10月に封切られ、すごく有名な映画。自分もすぐに日本に来ようと決めました」
そう話すのは、気多(けた)若宮神社を見学していた台湾のカップル。よりによってこの寒いのに、レンタサイクルで飛騨の聖地を回っているという。