通貨は、それを人々が通貨だと仮想するから通貨になる。金貨は、それが金で出来ているから通貨なのではない。それを人々が通貨だとみなしているから通貨なのである。かつて通貨だった小判は、いまや通貨ではない。骨董品だ。それは、人々が小判を通貨と仮想することをやめたからにほかならない。クマさんのぬいぐるみだって、我々がそれを決済手段だと想定すれば、立派に通貨になれる。
こうしてみれば、新たに登場してきた得体の知れないネット上の物体だけに、仮想通貨という名前を与えるのは、おかしいと思う。むしろ、「架空通貨」というべきではないか。筆者はそう考えてきた。
すると、最近、とても面白いテレビのニュースに遭遇した。仮想通貨に関する話題だったが、その報道が終わってしばらくすると、アナウンサーさんが「お詫びと訂正」の口上を述べた。「先ほどのニュースの字幕が誤っておりました。仮装通貨ではなくて、仮想通貨でした」。これはいい。この訂正は必要なかったと思う。あれらの物体には、仮装通貨の名称がピッタリだ。(浜矩子)
※AERA 2016年12月26日号