健康志向の高まり、高齢化、働く女性の増加など、食卓を取り巻く環境は大きく変わった。食品メーカーや卸業者など食に関わる会社は、こうした動きをビジネスチャンスと捉える。これからのニッポンの食卓とは? AERA 12月5日号では「進化する食品」を大特集。例えば、消費の減少で低迷する水産業。漁師から町の魚屋まで昔ほど儲からなくなった中、買い手のニーズをうまく取り込み成長を続ける会社が存在するという。
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名古屋駅からローカル線で2時間半の三重県尾鷲市。ここに養殖魚の加工度の高さで日本一の水産加工会社「尾鷲物産」がある。年商137億円(2015年度)。主にブリ、サーモンの2種で大手回転ずしチェーンの供給元となっているほか、多くの大手量販店と取引、コンビニにおにぎりの具材なども供給する。
15~17年の3年間で約16億円の設備投資を見込み、建設ラッシュの同社では11月8日に新しい加工センターが稼働したばかり。主にノルウェー産サーモンを月間130トン加工予定だ。
サーモンはベルトコンベヤーに載せられ流れ作業で骨や皮を取って切り身にされ、真空パックに詰められる。その隣の部屋では白いエプロンに帽子、マスクに青い手袋をはめた従業員が慣れた手つきでサーモンを切り分け、はかりで量ってトレーに並べていく。壁にはメーカー名とグラム数を書いた一覧表が貼られ、1グラム単位で切り分けているというから驚きだ。
「スーパーのバックヤードの人員不足などで、加工度の高い商品の注文がどんどん入っている」
と工場長の大谷誠さん(38)。
●安定供給のため川上へ
養殖・加工部門の柱となっているブリも、三枚に下ろすだけでなく、カマ、トロ、頭肉、腹骨などあらゆる部位を、別個に販売している。顧客のニーズを取り漏らさず、かつ未利用だった部位を有効活用することで販売価格を抑えた。
もともと魚の買い付けと包装や簡単な加工を行う程度だった同社は、05年に本格的な加工工場を整備。以来、業績は右肩上がりだ。07年には養殖を開始、続いて13年には近海マグロはえ縄漁船「良栄丸」を建造し、自ら漁まで始めた。なぜ「川中」の流通、加工から「川上」にまで進出したのか。