「いずれの団体の役員も、福岡の経済に一定の影響力のある『七社会』から選出されました。中でも寄付や助成の姿勢に関しては、拠出金の割合が半数以上を占めている九電の影響力が大きく、他の6社も九電に右へ倣えの姿勢でした」(前出の文連関係者)
七社会とは、名実ともに九州を代表する「九電」「西部ガス」「西鉄(西日本鉄道)」「福岡銀行」「西日本シティ銀行」「九電工」「JR九州」の7会社からなる任意団体。地元行事や学術、文化活動などで調整が必要な議題を協議し、福岡の政治、経済に対して絶大な影響力を維持してきた。11年以降、九州管内にある二つの原発が停止し、九電の財政が悪化した途端、新聞やテレビなどの通常の広告はもとより、これまで文化振興のために使われてきた助成金などが一切なくなった。大手広告会社の九電担当者はこう話す。
「1兆円を超す資産を有する会社は九州には九電くらいしかない。その緊縮財政は徹底していて、それまで各家庭に配られていたカレンダーさえ姿を消しました」
●誰もが福岡っ子に
毎年、市民に配られる九電のカレンダーの挿絵は、日本のグラフィックデザイナー界の重鎮で童画家として有名だった故・西島伊三雄氏のものだった。ご当地出身の西島氏は福岡の名誉市民でもあり「文連」の永久名誉理事長でもある。九電の存在なしに、福岡の「民」主導の街づくりは成立しなかった。
その一方で、福岡市民は大企業が地元に落とすお金だけを、黙って口を開けて待っていたわけではない。
「お金には、『冷たくて遠い』ものと『温かくて近い』ものと2種類ある。いま、福岡の町を面白くしているのは後者。それも天神ではなく、遊郭街のあった清川などの繁華街の周縁です」
地元の不動産業者「吉原住宅」の代表取締役社長・吉原勝己さんは語る。吉原さんは老朽化したビルやマンションをリノベーションで蘇らせ、そこをNPO関係者やクリエーターなど福岡の次世代を担う若い世代に貸し、カルチャーの発信基地としている。
「福岡は、よそ者でも誰でもすぐに受け入れ、去る者を追わないという風土がある。だから、福岡が好きと言ってしまえば、すぐに誰でも福岡っ子になれてしまう。これは大阪や京都などでは絶対に不可能なんです」(吉原さん)
「福岡らしさ」の正体とは何か──。それは、よそから来た人をもてなし、受け入れてきた歴史の中で育まれてきた福岡っ子の余裕と大らかさではないか。たとえ、天神など再開発の進む都市部が「リトル東京」化しても、それでいて東京にはなりきれない垢抜けなさが、福岡の街の懐の深さであり、愛される理由なのかもしれない。(ノンフィクションライター・中原一歩)
※AERA 2016年11月21日号