





九州新幹線の開通、軍艦島などの世界遺産登録、アジアからのインバウンドの劇的な増加……。昔ながらのよさをたたえながらも、進化し続ける九州。躍進を支える福岡の強さの理由を探った。
4千人乗りの大型客船からゾロゾロと老若男女が降りてくる。インバウンドの隆盛を象徴するような中国人観光客の上陸のシーンは、今や特別な光景ではない。遣唐使の時代から、大陸から渡ってくる人々を迎え入れる港町として、福岡はアジアに開けた海の玄関口だった。それでも、ここ数年はスケールが違うと博多港国際ターミナルの関係者は語る。
「1週間に2回、多い時は3回の割合で中国人観光客を乗せた客船がやってきます。その度に数千人規模の中国人が市内に繰り出し、同じ場所で、同じようにお金を落とすのですから、その経済効果は確実で絶大です」
その多くが、上海や香港を起点に10日前後でアジアを周遊するショートクルーズだ。この現状に困惑するのは、客船を利用した国内旅行を手がける老舗の旅行会社の幹部だ。
「旅行のハイシーズンとはいえ、すでに再来年の夏の港の予約が中国船籍で埋まっているんです。おかげで福岡に船を入れたくても、その日程がとれないのが現状です」
●際立つ存在感
ただ、必ずしも客船によるインバウンドだけが福岡の経済を支えているわけではない。中国人観光客の恩恵を得ているのは、大型商業施設「キャナルシティ博多」周辺が中心で、あくまで福岡全体の経済に与える影響は限定的と見る向きが多い。それでも東京以外の地方都市で、近年、福岡の存在が際立っている。東京にある全国放送のテレビ局の編成幹部は言う。
「いま、福岡ほどポジティブな印象を持つ都市はない。福岡好きという人はいても、明確な理由で嫌いという人はほとんどいない。街ロケひとつとっても老若男女、誰にでも受け入れられるコンテンツなんです」
雑誌やテレビで取り上げられる福岡といえば「食」だ。今やご当地グルメの代名詞となった豚骨ラーメンやモツ鍋以外にも、極太で歯応えのない柔麺が特徴の「博多うどん」や、完成までに1週間もかかる「皮」と呼ばれる焼き鳥など、これまで関門海峡を越えることがないと言われてきた“地元飯”が頻繁にメディアで特集され人気を博している。
●伸びる唯一の地方都市
「それでいて東京ではやるかと思えば、そうでもないんです。結局、地元に足を運ばないと食べることができない。東京を意識しつつも、東京にはなれないし、なろうとも思わない。この『偉大なる田舎』感が、福岡の魅力なんです」
福岡出身の漫才コンビ、博多華丸・大吉の博多大吉さんは、そう語る。
福岡は東京以外の地方都市で唯一、成長を続けている。公益財団法人福岡アジア都市研究所が発表したデータによると、JR博多駅を有し、福岡の都市部を形成する福岡市(人口約155万人)の人口増加率(10-15年、5.1%)が、東京23区(同3.7%)を抑えて日本一となった。また08年のリーマン・ショック以降、主要都市の中で、福岡市は地方税収入が唯一、増加した。行政関係者は、東京など首都圏への一極集中が進む中の快挙と自信を見せる。
そもそも商業都市としての福岡の発展は、中心市街地である「天神」の開発、成長と一致する。商人の街である「博多(現在の博多区)」と黒田藩の城下町である「福岡(現在の中央区)」。異なる性格を有する二つの地域の境界に位置する中央区の天神が、事実上、福岡の中心地となったのは、福岡の市街地が太平洋戦争時の大空襲によって焼け野原と化した終戦から、高度経済成長に至る「戦後」である。