父はコンピューターサイエンスの研究者で、私も小学生の頃にはウェブサイトを立ち上げていましたが、実はプログラミングは何度も挫折しちゃって。例えば「a」と「o」を書き間違えただけで、プログラムは動かなくなります。それを見つけるまでに5時間も6時間もかかる。よくある落とし穴です。

 起業の準備をしていた2011年、風邪をこじらせて自宅にこもっていたときに、「Ruby on Rails」言語でプログラミングに再挑戦しました。本や、ネット上にあるオープンソースを参考に、自分でコードを書いて、一緒に何かをする仲間を探すビジネスSNS「ウォンテッドリー」の原型を作ったんです。

 それまでは友人のエンジニアに開発を手伝ってもらっていたのですが、友人も仕事があって無理は言えない。アイデアがひらめいてもすぐに反映できない焦りがありました。でも、自分でプログラミングができるようになると、自分の考えたことを次々に反映し、改良できる。開発のスピードが増しました。

 現在は技術を持っているエンジニアと一緒に新しいサービスを開発しています。企画する側がプログラミングを理解していると、説明も伝わりやすいし、その改良の難易度や必要な期間もわかる。仕上がりの見通しを持って、仕事に取り組めます。

 あらゆるサービスがウェブ上で展開されるいま、経営者に必要なのは「MBAよりプログラミング」だと思いますね。

●生き方にも影響する

 プログラミング思考が日常生活やビジネスの役に立っていることはほかにもあります。

「Ruby on Rails」の基本理念のひとつが「DRY」。「Don't Repeat Yourself」の頭文字で「同じことは繰り返さない」の意味です。パソコンの辞書ツールで単語登録すれば、「お」が「お世話になっております。ウォンテッドリーの仲です。」と変換される。同じ言葉を打ち込む手間と時間が省けます。

 いつのまにか、プログラミングが考え方や生き方にも影響を及ぼしていると実感しています。(編集部・深澤友紀)

AERA 2016年10月31日号