「日本のIT業界にはピラミッド型の下請け構造が存在します」
1次請けの企業が要件定義をやり、2次請け企業がそれをもとに設計して、3次請け企業は設計書をもとに開発とテストをやる、といった具合だ。2次、3次となるにつれ、エンジニアの給与が低くなるのが必然。
「1次請けにあたる大手企業の年収体系を100とした場合、2次請けの企業は90くらい、3次請けでは、85くらいになってしまう。全体では待遇改善が図られているとはいえ、構造に起因するこうした『差』はどうしてもあります」(上杉さん)
昨今は、中国、インドを筆頭に、フィリピン、ベトナムなどアジアの優秀なエンジニアが台頭し、開発業務の一部を海外に委託する例も増えている。そのため、ただ指示通りプログラミングができるだけでは日本人エンジニアのバリューは示せない。下流工程だけに関わっていると、海外人材に自分の仕事が奪われるのでは、と脅威を感じているエンジニアも多いという。
では、これからの時代に勝ち残るためには、どんなスキルを身につければいいのか。
●世界水準の報酬額
大手ベンチャーや、大手SIerなど、日々さまざまな企業をみている上杉さんは言う。
「どの企業でも『優秀なITエンジニア』といわれる人たちは、技術的なスキルだけでなく高いビジネススキルも持っている」
ITエンジニアが関わるプロジェクトは、多くの人との協業。そのため、コミュニケーションやマネジメントの能力、課題解決能力といったビジネススキルは必要不可欠なのだ。
人気のフリマアプリ「メルカリ」を運営し、ここ数年、年収1千万円クラスのエンジニアを複数採用しているメルカリで最高技術責任者を務める柄沢聡太郎さんは、優秀なエンジニア像をこう捉えている。
「論理的思考や想像力、視野の広さを持つ人。特定のプログラミング言語や流行の技術によらない基礎的な力をつけて、経験を積んでいることが大事です。それがあれば、技術的潮流が変化しても通用する。また、本当に優秀なエンジニアは、グローバルな目線でキャリアを考えているので、当社の採用活動では世界水準に照らして後れを取ることがないように、エンジニアの報酬額を決めています」
どこで何を学べばITエンジニアになれるのか。
弁護士になるためには法学部で学び、医者になるためには医学部で学ぶように、ITエンジニアになるには大学でコンピューターサイエンスを学ぶことが必須なのだろうか。
「日本のITエンジニアにはさまざまな経歴の人がいて、大学でコンピューターサイエンスを専攻していない人も数多く活躍しています。文系出身の人だっていますよ」(上杉さん)
IT教育に詳しいライターの神谷加代さんも、
「ITエンジニアになりたいという人に、特定の大学名を挙げてそこにいくべきだ、とは言いにくい」
国内で、コンピューターサイエンスの歴史がある大学としては東京大学、東京工業大学、慶応義塾大学があるが、将来的にどういう領域の仕事をしたいのかによっても、大学で学ぶべきことは違ってくるのだ。