●交付金も足りない

 国は、障害のある子どもが保育所に入れるように、1974年度から補助をスタートさせた。現在は、障害児2人に対し保育士1人を配置できるように地方交付金を算定している。ただ、障害児保育に詳しい日本福祉大学元副学長で、NPOあいち障害者センター理事長の近藤直子さん(66)によると、この交付金はフルタイムで預けるには足りないという。また、対応は自治体の裁量により、保育所側も短時間パートや非常勤の保育士で対応しているケースが多く、預かる時間を制限する園もある。そもそも保育士や看護師不足の問題もあり、重度の肢体不自由と重度の知的障害の重複障害がある重症心身障害児(重心児)や医療的ケアが必要な子どもは、入園が難しい状況だ。

 3年前、病児保育サービスなどを展開するNPO法人フローレンスに「医療的ケア児を受け入れてくれる保育園がない」という悩みが寄せられた。スタッフで都内23区全域を探したが、医療的ケア児を預かってくれる保育園はなく、森下倫朗さん(35)は言葉を失ったという。

「900万人が住む東京23区で、たった一人の障害児も受け入れられないなんて」

 調べてみると、健常児の母親の常勤雇用率は34%なのに、障害児の母親の常勤雇用率はたったの5%。障害児のいる家庭は離婚率が健常児世帯の6倍というデータもあり、貧困のリスクも高い。すべての障害児の親が保育園を希望しているわけではないが、親が働きたくても働けない現実があることを知った。

 フローレンスは14年9月、日本で初めて医療的ケアが必要な子どもや重心児を長時間預かる障害児保育園「ヘレン」を東京都杉並区内に開園した。

 丸2年を迎えたヘレンを訪れた。午後3時からはおやつの時間。この日のメニューは「りんごともものペースト」。重心児クラスの園児は、自分専用の座位保持椅子やソファに座り、スタッフが1人ずつついてゆっくり口に運ぶ。とろみの具合は、コーンポタージュ程度、ヨーグルト程度など各園児が医師から指導されているかたさ。胃ろうのため、胃に開けた穴に直接流し込んでいる子もいる。

 もう一つのクラスは、重心児ではないが医療的ケアが必要な園児が通っている。2クラス計11人に対し、常勤職員は9人。そのほか、理学療法士や作業療法士など非常勤職員も数人いて、保育時間は午前8時から午後6時半まで。送迎バスもある。

 これほど手厚い保育・看護なら保育料が高いのではと心配になるが、通常の認可保育園と同程度だ。障害福祉サービスの「児童発達支援事業」と子ども・子育て支援制度の「居宅訪問型保育事業」を組み合わせ、助成を受けることで実現させた。

次のページ