●「母親が看護」9割

 こうした在宅での医療的ケアを支えているのは、ほとんどが母親だ。東京都世田谷区と社会福祉法人むそうが在宅で医療的ケアをしながら生活している人を対象に行った調査によれば、障害者本人が18歳未満の場合、主たる介護・看護者は母親が9割を占めていた。15年度の厚生労働省の委託調査によると、介護者の睡眠時間は5~6時間、6~7時間がそれぞれ3割。しかも、4人に1人は睡眠時間が「断続的」と答え、睡眠時間も十分に取れていない現状が浮かび上がる。

 また、6割の人が直近3カ月で障害福祉サービス等を利用していないと回答。母親の多くは、「元気に産んであげられなくてごめんね」という思いもあって、苦労をすべて抱え込んでしまいがちだ。時間的にも経済的にも精神的にも大きな負担を抱える医療的ケア児とその介護者。本来もっとサポートが必要なのに、障害福祉サービスや保育園などを利用できず、社会とのつながりも絶たれて孤立している。

「医療的ケア児」と聞くと寝たきりの子どもがイメージされがちだが、ケアが必要なこと以外は知能も運動も正常という障害児もいる。それでも、多くは医療的ケアを理由に保育園や幼稚園、普通学校への通学を断られている。今年施行された改正障害者総合支援法は初めて彼らの存在に言及。自治体が医療的ケア児支援の努力義務を負うことになったが、保育園や学校での受け入れには看護師の配置も必要となり、予算面など多くの課題をクリアしなければならない。

 医療的ケア児以外にも、障害を理由に入園を断られ、「地域で友だちと一緒に育てたい」というささやかな願いがかなわず、悩む家族がいる。

 愛知県内の女性(51)は、自閉症で軽度の知的障害がある次男(8)が2歳の頃、自宅近くの公立保育園が定員割れしているにもかかわらず入園できず、一時保育や託児所など4カ所に通園させていた時期があった。毎日行き先が違うので子どもの心が安定せず、送り迎えの負担も大きかった。1年後希望していた公立園に入園できたが、園からはこう言われた。

「8時40分以降に登園し、午後3時半には迎えにきてください」

 フルタイム勤務で、通勤に1時間半かかる。送り迎えを夫と分担しても午後3時半の迎えは厳しい。送迎もある児童デイサービスを見つけて、働き続けた。

 中部地方の団体職員の男性も、知的障害のある5歳の息子の保育園から「お迎えは4時半までに」と言われ、悩んでいる。

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