「費用対効果はどうか」
「クラウドサービスのセキュリティーは信頼できるのか」
稟議(りんぎ)が上がっていくたびに、先方の担当者から指摘が飛んできたが、自社の法務部門や開発部門にも頻繁に足を運んで解決法を探り、契約にこぎつけた。
「営業先の要求と社内でできる範囲が離れていても、なんとかできる可能性を探りたい、と思って進めました」(芳賀さん)
他の部署に面倒な手続きが発生する場合は、手順書を整理して渡し、説得する。そういった仕事を着実にこなし、15年には中央官庁との契約に成功。中央官庁が導入したことで、Sansanのサービスに対する信頼度は大きく向上した。
●マネジャーに転換中
半年前、シニアマネジャーとして部下を率いる立場に昇格。プレーヤーとしてのスキルはあっても、前職も含めてマネジメントの経験はなかった。
「正直、会社ではプレーヤーとして結果を出すことがすべてと思っていました」
再び「基本」に立ち返った。開いたのはドラッカーの名言を集めた『仕事の哲学』。
<組織内の摩擦は、相手の仕事、仕事のやり方、重視していること、目指していることを知らないことに起因する>
その指摘への答えが、冒頭のオフサイトミーティングだった。
「部下には男性も女性もいるし、全員に『飲みに行こうか?』と誘うのも難しい。そんなメンバー同士が打ち解けるイベントはどうすればいいか考えて、このスタイルを思いつきました」
プレーヤーからマネジャーへ。難しいシフトチェンジ実現にも、やはり「基本を忠実に実行すること」だと芳賀さん。
一昨年に結婚し、今年長女が誕生した。独身から夫、父へのシフトチェンジも敢行中だ。
「やっぱり育児書をたくさん買い込んで研究しています」
と、妻の明恵さん(35)は笑う。
(編集部・福井洋平)
※AERA 2016年10月10日号