「例えば東急田園都市線の渋谷駅といった大ターミナルを通過する列車の設定は非常に難しいだろう。降車専用ホームを造るなどの投資をしたほうが効果的」

 また、(2)のドア感度向上についても「ハンドバッグのヒモのような数ミリのものまで検知できる感度がないと成立しないことを考えると、現実味は乏しい」という。ただ、「小池都知事が公約に掲げたことで鉄道会社に対し混雑問題に取り組むプレッシャーをかけられる。混雑する金曜夜に増発するなど、すぐにできる施策もある」とも評価する。

 東京と横浜、横須賀を結ぶ京浜急行電鉄は昨年、国土交通省が主催する「日本鉄道賞」の特別賞を受けた。「線路配線や信号などの地上施設、運行管理システムなどの設備の改良」などにより、高頻度運転を保ちながら安定的な輸送を実現している。ある識者は「JRと並走していることもあり、速さに対する意識が高い。ダイヤが乱れても列車を動かせるところまで動かし、臨時列車も柔軟に仕立てて早期に通常ダイヤに戻し混雑を防ぐ」と評価する。満員電車をゼロにする一歩目は、こういった鉄道会社の「やる気」にもかかっているのだ。

●利用者の費用負担も

 満員電車ゼロのために、阿部さんは利用者の費用負担も訴える。例えば、ICカードを利用した着席割増料金の設定だ。

 車内でICカードをタッチすることでいすを引き出せる仕組みで利益をあげ、それを増発や総2階建て化などの費用に回す。また、「混雑が激しい金曜深夜の増発も、自動改札により1人数十円の深夜割増を設定すれば実現できる」と語る。時差出勤も、ラッシュ時の運賃を上げることで後押しする。

「多少の負担をすれば満員電車をなくせると利用者が気づけば、満員電車ゼロは実現できる」

 満員電車がゼロになれば、郊外の広い家に住むインセンティブも高まる。郊外居住で快適通勤するためには交通費が1世帯で月に6万~10万円増えるというが、それを差し引いても広い家に住める。例えば日比谷線広尾駅周辺では60平米、2LDKで家賃約20万円はかかるが、そこから東武伊勢崎線経由で約1時間20分の北春日部駅(埼玉県)までくると十数万円で100平米近い一軒家に住める。満員電車ゼロ政策は、人口減少に直面する首都圏郊外を活性化させる切り札になるかもしれない。(編集部・福井洋平)

AERA 2016年9月26日号

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