榊原定征経団連会長(左)と会談する張高麗副首相。張氏は「日中関係は改善に向かっている」と発言し、過去最大級となる200人超の訪中団を歓迎した=9月21日、北京市の人民大会堂 (c)朝日新聞社
榊原定征経団連会長(左)と会談する張高麗副首相。張氏は「日中関係は改善に向かっている」と発言し、過去最大級となる200人超の訪中団を歓迎した=9月21日、北京市の人民大会堂 (c)朝日新聞社
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相手国に対してどのような印象を持っている?(図表は「2016年日中共同世論調査【日中比較資料】」[特定非営利活動法人 言論NPO、中国国際出版集団]のデータを基に作成)
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良い印象を持っている理由は?(複数回答)
良い印象を持っている理由は?(複数回答)
良くない印象を持っている理由は?(複数回答)
良くない印象を持っている理由は?(複数回答)
良くない印象を持っている理由は?(複数回答)
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両国の間で軍事紛争が起こると思う?
両国の間で軍事紛争が起こると思う?

 特定非営利活動法人「言論NPO」などが、2005年以降毎年実施している日中共同世論調査の16年の調査結果が9月23日、発表された。データを基に日中関係の今を読み解く。

「身長2メートルの小学生」

 上海駐在歴5年の日系商社勤務の日本人男性(48)は中国をこう表現する。

 2012年9月。「尖閣国有化」直後の上海で、反日デモが相次ぎ、近所の日系デパートが荒らされる光景を目の当たりにした。5日間にわたって仕事は完全に麻痺。子どもが通う日本人学校も閉鎖し、一時は妻子の帰国も真剣に考えた。

 だが、人口13億人余の中国社会は多様で、その後もすさまじい勢いで変化している。日本企業は、少子高齢化が進む国内の経済活動に依存し続けるわけにもいかない。この現実を踏まえず、政治的対立をあおりがちなメディア状況を、男性は苦々しく捉えている。

「執拗にリスクと不安をあおり、相手国を敵とみなしてこき下ろす。そうした報道は実像とかけ離れており、何の解決にもつながりません」

 言論NPOなどが実施してきた日中共同世論調査からも、メディアが伝える情報に大きな影響を受けてきたことがうかがえる。それを象徴するのが、「相手国に対する印象」だ。

●震災時の日本人に好感

 尖閣国有化をめぐる対立激化を受けた13年以降、日本側は「良くない」(「どちらかといえば」を含む)が9割前後でほぼ横ばいだ。しかし、中国側は「良くない」(同)が下降し、16年の調査で76.7%。「良い」(同)も微増ながら伸び続け、16年は21.7%まで回復した。

 この結果について、日中関係に詳しい共同通信客員論説委員の岡田充氏は、

「日本観光ブームで等身大の日本に触れた中国人が増え、『抗日戦争映画』で描かれたステレオタイプな日本・日本人像が崩れたことも影響した」

 との見方を示す。

 07年から3年間、科学技術担当書記官として在中国日本大使館に勤務した伊佐進一衆院議員(公明)も、「等身大の相手国を知る」重要性を指摘する。

「相手を正確に知ることができれば、日本がどういう形で中国に関わるのが最も得なのか、ひいては双方が得をするのかが見えてきます。科学でも文化でも経済でも、偏った情報で一面しか理解しなければ、ウィンウィンの関係構築は難しくなると思います」

 伊佐氏は、中国側が日本に良い印象をもつ理由のトップが、「礼儀があり、マナーを重んじ、民度が高い」(52.9%)である点について、こんな要因を挙げる。

 東日本大震災の際、混乱の中でも被災地の一台の公衆電話の前に並ぶ日本人の姿や、08年に発生した四川大地震の際、日本から派遣された救援隊が亡くなった人たちの前で黙祷を捧げる姿は、中国のネット社会で拡散された。こうした映像に触れ、日本に対して良い印象をもった、との声を多くの中国人から伊佐氏は直接聞いたという。

 伊佐氏は今年8月、超党派国会議員でつくる日中次世代交流委員会の事務局長として訪中した。この際、NHKがリオデジャネイロ五輪でバレーボール女子の中国対セルビアの決勝を中継し、日本の解説者が興奮のあまり声をからし「中国、金メダル獲得!」と繰り返し叫ぶ場面を中国国営テレビ(CCTV)が報じているのに出くわした。

 中国のネットユーザーがNHKの中継を拡散し、「中国の勝利にも心から喜んでくれている」といった感激の声が広がったのを受け、CCTVもニュース番組で取り上げたのだ。

 伊佐氏は言う。

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