「日本側回答と合わせて読めば、両国間の最大のトゲである尖閣問題を交渉のテーブルにのせ、解決を望む声が日中世論のマジョリティーであることを示しています」
●軍事動向詳しい中国人
今回の調査結果で最も懸念されるのは、「日中間で軍事紛争が起こると思うか」との質問に対する中国側の回答だ。
「数年以内に起こると思う」「将来的には起こると思う」を合わせた回答は62.6%で、前年の41.3%からはね上がった。
この理由を岡田氏は「『中国の脅威』に対抗して安倍政権が対中包囲政策と日米安保強化に前のめりになっていることへの反発がある」と分析する。
一方、高原教授は「中国の一般の人は日本人よりはるかに軍事動向に詳しく、戦争に対する認識も『戦争は絶対悪』ととらえられがちな日本とは異なります。中国政府が日本と戦争をしたいと考えているとは思いませんが、冒険主義で行動されると非常に危ない」と指摘。中国の冒険主義を抑止するため、ある程度の抑止力強化は必要との認識だ。ただし、軍拡競争に陥らないよう信頼醸成も同時に進めなければいけない。
「中国に対して、相手の目を見てしっかり物が言えるのは日本しかいない。これは日本が果たすべき責任でもあるのです」(高原教授)
希望を見いだせそうなのが、「東アジアが目指すべき価値観」への回答だ。日中ともに「平和」と「協力発展」が上位を占めた。
前出の伊佐衆院議員は「非常に重要で心強い」と歓迎する。政治や外交において、国民感情を無視できないのは中国も同様。であるならば、と伊佐氏は力を込める。
「日中間にさまざまな課題や利害対立があっても、両国民の共通の価値観である『平和』や『協力発展』を実現させる方向に、政治や外交の大きな流れを進めていくべきなのだと信じることができます」
「学術的根拠もなく、よく言うんですけど……」と断りながらも、高原教授はこう展望した。
「これから20年間、日中が武力衝突しないまま関係を保つことができれば、その間に中国は変わってくれるんじゃないか、日中関係はうまくいくんじゃないかという期待はあります」
中国だけでなく、北朝鮮が「軍事的脅威」になるにつれ、日本国内ではハト派的な物言いは説得力を失う傾向が強まっている。こうした「空気」の中、軍拡が進み、東アジアの軍事的緊張はさらに高まる。この悪循環から抜け出すことに、メディアも世論も真剣に向き合うときなのではないか。(編集部・渡辺豪)
※AERA 2016年10月3日号