朝鮮半島情勢に詳しい平岩俊司・関西学院大学教授は、北朝鮮の核・ミサイル開発について、
「1990年代の第1次核危機以降、条件次第では開発をやめてもいいというような外交交渉のカードだった」
と説明する。しかし、最近の技術の進歩は、
「金正恩(キムジョンウン)という最高権力者が気まぐれでやっているというものではなく、彼らなりに計算して能力や精度を高めていると見なければ説明できない」
と指摘。国際社会がその技術力を過小評価し、「やれるものならやってみろ」と高をくくっていたことが、北朝鮮に核・ミサイル技術の開発に突き進む時間や環境を与えてしまった可能性は否めない。
目的はやはり、「体制維持に向けた米朝協議の開始」だというのが主流な見方だ。平和協定の締結、国交正常化、米国の朝鮮半島における軍事的中立の宣言、不可侵協定などを見据え、まずは直接対話を拒み続ける米国を席につかせるための最大の手段が、「米国本土を攻撃できる核兵器の保有」だと北朝鮮は考えている。そう、多くの専門家たちはみている。
●「平時の最高指導者」
今年5月、36年ぶりに開催された朝鮮労働党大会。スーツにネクタイ姿で演説した金正恩氏は、核保有国として核・ミサイル開発を続ける姿勢を示す一方、「核の先制使用はしない」と宣言した。平岩教授は、このときの服装に注目し、こう話す。
「ネクタイ姿は、祖父の金日成(キムイルソン)国家主席に似せたと言われるが、もう一つ、『平時の最高指導者』であることを印象づけたかったんだと思う。対話路線に行こうとしたが、米韓は応じてこなかった。だから北朝鮮は『米韓が対話に応じないのは、危機が足りないからだ』と考える」
そこで、ミサイル発射実験などを繰り返し、「危機」を作り出そうとしていると平岩教授は分析する。
同時に核の実戦配備に向けた技術革新のピッチも上がっている。7月、米韓両政府は、中国の反発を押し切る形で、米国の高高度迎撃ミサイルシステム「THAAD(サード)」を韓国に配備することで合意した。地対地の長距離弾道ミサイルは日米韓のミサイル防衛システムで迎撃される可能性があるため、
「北朝鮮はSLBMに特化した核戦力の開発も進めている」
と武貞特任教授は話す。SLBMを搭載する原子力潜水艦の開発も急いでいるという。通常型よりもスクリュー音が小さく、半永久的に連続潜航が可能なため、発見されにくい。となると、米国本土に近づいて、ミサイルを発射することも可能になる。