「将来、Nymiがこうしたウェアラブルに搭載されれば、健康管理と認証機能が備わった一度で二度嬉しい製品となり、企業の導入を後押しするはずです」(マーティンさん)
●新技術(3)医師の診察補助 皮膚を撮影し照合して診断
糖尿病を患っていると足首や背中などに症状があらわれたり、肝臓病なら手のひらに発疹が出たりする。皮膚は内臓を映す鏡という言葉があるように、疾患を探知するシグナルとなる。ところが、胸の痛みや腹痛といった症状にはレントゲンや超音波などの検査があるのに、ごく最近まで皮膚に特化した検査は存在しなかった。
そんな状況を変えようと2012年に誕生したのが、米ロサンゼルスのベンチャー企業「Lubax」だ。医師と技術者から成るプロフェッショナル集団。同名のアプリは、皮膚に特化したGoogleの画像検索のようなもの。専用アプリで患者の皮膚を写真に撮ると、それが1万2千枚を超える皮膚写真のデータベースに照合される。診断結果の候補が出るまでの時間はわずか5~10秒。最高経営責任者のレイモンド・チェンさんはこう話す。
「ハーバード大学などとの初期臨床実験では、大きなメラノーマ(悪性黒色腫)を90%正確に診断しました」
従来、皮膚障害の診断は非常にアナログだった。医師は皮膚を目で見て、過去に見たことがあるものか、自分の記憶をたどるしかない。Lubaxは、ピクセルレベル(画像が持つ色情報の最小単位)で画像を微細に解析する。茶色一色をとっても、人間の目には区別がつかない256通りを探知できる。また、データベース内のすべての写真には、皮膚科学の専門家による診断結果が紐付いている。つまり、Lubaxを使うことは、医師にとって専門家からのセカンドオピニオンを得ることにもなるのだ。
米国食品医薬品局には、Lubaxを医療ツールとして申請中。コア技術の特許は取得済みで、著名大学との臨床実験に基づいた論文も順次発表している。Lubaxは現在、米国、カナダ、韓国など8カ国で利用できるが、日本では本誌の発売日にあわせてリリースされる。各国の法規制への準拠など道のりは長いが、チェンさんはLubaxが一般消費者にも使われる未来を描く。
「特に、高齢者や病院へのアクセスが悪い過疎地に住む人などに役立つでしょう」(チェンさん)
●新技術(4)11時間を節約 秘書代わりに会議日を設定
SF映画の金字塔「2001年宇宙の旅」(1968年公開)には、AI(人工知能)を搭載した「HAL9000」というスーパーコンピューターが登場した。「her/世界でひとつの彼女」(2013年公開)では、主人公が「サマンサ」という架空の人工知能型OSに恋をする。映画史にも見て取れる、人類が長きにわたって憧れてきたAIとの共存。それが今、現実のものになろうとしている。
x.ai社(米ニューヨーク)が開発するのは、会議の日程調整に特化したバーチャルアシスタントだ。Outlookなどの電子メールアプリで使える。その名もエイミー(男性版はアンドリュー)。ユーザーは、日程調整が必要な相手とのEメールのCCにamy@x.aiというメールアドレスを入れるだけでいい。すると、「会議は午前中にまとめたい」「1回の会議は最長1時間」といった個々人の好みをもとに調整し、カレンダーに予定を登録するまでを仕切ってくれる。
あえてメールの内容を曖昧にして、さらには時差がある相手との日程調整をエイミーに依頼してみた。結果、3日ほどで会議が設定された。名前らしきものを場所であると的確に判断し、打ち合わせ相手に知らせるために具体的な住所を聞いてきた。
x.aiによると、1回のスケジュール調整にかかる時間は約15分、平均8回のメールを要する。これをエイミーが肩代わりすることで、1カ月11時間を節約できるという。共同創業者で最高経営責任者のデニス・モーテンセンさんはこう言う。