「時間の節約は、コストを削減するだけでなく生産性を高めます。営業担当者なら、新たに生まれた1年132時間を新規顧客の獲得に注ぐことができる」
公式サイトでリストに登録すると、x.aiが順次使えるようになる。試験版は無料で、今秋には有料ビジネス版をリリース予定。価格はまだ未定だが、人間の秘書を雇うのに比較すると破格の値段になるはずだ。同社はソフトバンクからも出資を受けており、今後、他言語で展開する際には日本市場を有望視しているという。
●新技術(5)医療向けVR 別世界に誘い痛み軽減する
病院のベッドほど退屈な場所はない。術後なら、回復を待って時間との闘いが続き、しまいには天井の模様を動物などに例えるようになる。退屈もつらいが、痛みもつらい。痛みについて考えまいとすればするほど、それしか考えられなくなる。そんな無念な状況から患者を解放し、別世界にいざなってくれる装置があるとしたらどうだろう。
「AppliedVR」は、米ロサンゼルス発のわずか10人弱のベンチャー企業だ。同社は、臨床環境に特化したバーチャルリアリティー(VR)コンテンツを開発している。VRは、人間の感覚器官に働きかけることで、現実と錯覚してしまうほどリアルな仮想世界を作り出す技術。専用アプリを起動したスマホをヘッドセットにはめて頭に装着すると、その世界に瞬間移動し、脳がハイジャックされているような感覚に陥る。
腕に点滴が打たれて身動きがとれない状態では、腕はおろか頭を動かす範囲さえ限られる。
「コントローラーを使うことなく画面を熟視するだけで機能するため、術前から術中、術後にも使えます」と最高経営責任者のマシュー・スタウトさん。
コンテンツは主に三つ。「痛み軽減」は、痛みから気をそらす目的の簡易なゲームだ。目の前に現れるクマのキャラクターを熟視することでボールを当てて、退治する。「リラクセーション」は、砂漠の夕焼けなどの美しい世界に女性のやさしい声が響き、穏やかな気持ちに導く。「自然や風景」は、病院のベッドを抜け出して、外の世界にいざなってくれる。
このVR、ヘルスケア領域において過去30年以上にわたって研究が行われてきたが、近年、サムスン電子などが開発する軽量で安価なヘッドセットの登場で汎用性が高まった。臨床現場からも期待が集まる。米国では、薬物の過剰摂取による死亡事故の67%に帰因する、高中毒性鎮痛剤オピオイドの処方が問題視されている。オピオイドを処方する代わりに、VRで痛みを軽減する方法が模索される。実際、AppliedVRとシダーズ=シナイ病院(ロサンゼルス)の共同検証実験では、患者の痛みが24%軽減されたという。
●新技術(6)人身売買撲滅 ホテル撮って性奴隷を救う
写真収集をクラウドソーシングする、とあるアプリが米国のメディアで話題を呼んでいる。宿泊したホテルの部屋を写真に撮ることで、性犯罪捜査に役立てられる「TraffickCam」だ。ユニセフによると毎年、米国だけで30万人、世界で120万人の子どもが性的人身売買の被害者になっている。このアプリは、人身売買の撲滅に取り組むNGO「Exchange Initiative」が開発した。
部屋の写真は、iOSとAndroidアプリ、専用ウェブサイトから投稿できる。部屋全体、足元から写したベッドなど、一部屋につき計4枚の投稿が推奨されており、ホテル名と部屋番号も入力。投稿は匿名で、人物が写り込んでいるような写真はデータベースから削除される。
目的は、世界中のホテルの部屋の膨大なデータベースを構築すること。人身売買の業者は、被害者をホテルの部屋で撮影した写真をネット上に掲載する。この写真をTraffickCamのデータベースに照合すれば、カーペットの模様などから人身売買が行われた具体的な場所を特定しやすくなるのだ。
(ITライター/三橋ゆか里=ロサンゼルス)
※AERA 2016年9月19日号