「10年以上墓参りできておらず、気がかりだったのでホッとした。両家の宗派が違うことが心配だったが、親戚は気にする必要はないと言ってくれた」

●寺への不信感が募る

 夫婦それぞれの実家の墓を合わせた墓は「両家墓」といわれ、近年注目される墓の形態だという。前出の井上さんはこう解説する。

「異なる名字の表札が並ぶ2世帯住宅と同じようなもの。少し前は同じ敷地に二つの墓を並べる例も多かったが、最近は墓石も一つにまとめてしまう例が増えています。コストも安く、管理の負担も減らせます」

 異なる家の墓を一つにするため、「◯◯家の墓」とはせず、「和」などの文字を入れるケースが多いという。

 一方で、改葬に踏み切ることができず、悩む人もいる。年老いた両親を田舎に残して東京で家庭を持った会社員Eさん(女性、42)は、親が望む婿養子を取れずに結婚して家を出た。今も「後継ぎ」になれなかった罪悪感に苦しむ。

「この家と墓は誰が守るのかとなじられ、婚姻届を出した日に母に泣かれました」

 結婚後も母はあきらめてくれなかった。定年退職したら田舎に帰って実家に住むようにと言い、自分たちの死後に家を売ったりしたら許さないと釘を刺してきた。近所の菩提寺には先祖が眠る墓があり、実家には両親が300万円もかけて新調した仏壇がある。

「『帰ってくる気はない』と伝えられないまま、母は亡くなった。将来、父を見送ったら実家を手放したいが『家と墓を守れ』と言われるのが怖くて、父にも言い出せない」

 Eさんが家と墓を重荷に感じる理由はまだある。檀家になっている菩提寺への不信感だ。

「宗教家とは思えないほど、住職が金に汚い。よくわからない修繕や改築の寄付の依頼で両親は200万円も払わされていたが、決算書を見ても納得いかない項目がある。母が事故死したときも、示談や賠償金について探りを入れてきたのはこの人だけ。悲しみに暮れる遺族にそんなことを聞くなんて非常識」

 父を見送ったら自分が檀家としてこの住職と付き合っていくことになるが、どれだけ「無心」されるのかと思うと憂鬱でならない。改葬のことは知っているが、自分たちを「金ヅル」と考えているあの住職が応じるとは思えず、考えるのも嫌になる。しかも、両親は地元で生まれ、農業を営んできただけに土地への愛着が人一倍強く、都会で眠らせるのは酷な気がして身動きが取れないのだという。

 日本葬祭アカデミー教務研究室代表で葬祭カウンセラーの二村祐輔さんは、親の見送りや墓の継承問題で生じる罪悪感について、こうアドバイスする。

「少子高齢化が進む今、墓を継ぐこと自体が困難になっています。昔ながらの供養観と現実は大きく乖離しており、生きていかなければならない自分より、死んだ親の希望を優先すると後から無理が出てきます。ましてや、顔も知らない先祖のことには割り切りも必要」

●法外な手切れ金を請求

 前出の井上さんも、「一生縛られ続ける必要はない」と話す。

「誰も来ない田舎より、子どものそばで眠りたいと思う人も意外と多い。土地への愛着が強い親ならいったん先祖代々の墓に入れてあげたうえで、10年ほどたってから都合の良い場所に改葬したり、合葬したりしてもいい。10年も親の希望をかなえてあげたのなら、十分親孝行したと考えて」

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