核家族化で先祖供養への意識が薄れる中、継承者がいなかったり、地方にあって管理が大変だったりする墓を片付ける人が増えてきた。2030年に年間死亡数が160万人を突破するニッポン。新しい供養のあり方とは。
「初めて見た墓の中は暗くて汚くて、こんなところに入るなんてかわいそうに感じた」
3年前に父を見送った自営業者のAさん(男性、41)は、納骨の時をこう振り返る。Aさんの宗派では骨壺ではなく、遺骨を直接墓の中に入れる。先祖の遺骨の中に父の遺骨をガサッと入れてしまうと、どれが誰の骨かもわからなくなってしまった。
建設コンサルタントとして途上国を転々としながら国際協力に携わっていたAさんの父は、大好きな南アフリカの海に散骨されることを望んでいた。納骨する分とは別に取っておいた遺骨を、早く父が望む海に連れていってやろうと決意した。
●アフリカの海に散骨
自身も父と同様に途上国支援の仕事に就き、アフリカは第二の故郷のような存在だ。遺骨を持って南アフリカに渡り、ケープタウンからロベン島行きの観光船に乗った。深いコバルトブルーの海面に、遺骨をハラリとまいた時、ここでの散骨を望んだ父に共感できたという。
「波に乗って世界を回り、小魚の餌となって食物連鎖に組み込まれることで、永遠の命を与えられるような気がした」
一人残された母のため、Aさんは海外での仕事を辞めた。これまでのキャリアは海外でしか通用しないので、日本で働けるよう国内業務に必要な資格取得を目指して勉強中だ。
若者にとってはどこか遠い出来事である「死」も、40、50代ごろから突然身近なものとして迫ってくる。親を見送る経験をする人が増え、「喪主」を務めるという現実に直面する。
2000年には96万人だった年間死亡数は、15年に戦後初めて130万人を突破したと推計されている(厚生労働省・平成27年人口動態統計)。国立社会保障・人口問題研究所の推計によると、年間死亡数は今後さらに増え続け、30年には現在より2割以上多い160万人を突破する勢いだ。膨大な数の「死」が今後、生きている者に否応なく降りかかってくる。生きる世代には、そのための心構えや備えが不可欠だ。
「だれもが自分自身の最期を考えるより先に、親の死に直面する。ほんの10年ぐらい前は、伝統的なしきたりを守らなければ非常識、親不孝とされてきましたが、最近は新しい価値観を親世代と共有し、自分たちらしい見送りをしようとする人が増えています」
と話すのは、認定NPO法人エンディングセンター理事長の井上治代さんだ。
同センターが企画した「桜葬」墓地は、桜の木を墓標として遺骨を土にかえす葬法だ。継承者が不要なので、子どもがいない人が利用するのかと思いきや、生前に契約する人の7割以上に子どもがいるという。しかもその半数弱には息子がいる。
「後継ぎの有無にかかわらず、墓の継承という負担を残したくないと考える人が多い」(井上さん)