いち早く梅雨が明けたばかりの焼けつくような強い日差しの中、黒い服に身を包んだ幾万人の群衆からは、静かだが強い怒りが漂っていた。
米軍属の男による殺人・強姦致死容疑事件に抗議する県民大会が6月19日、那覇市で開かれた。主催者発表で6万5千人が参加。過去の県民大会と違い、シュプレヒコールも、天に突き上げるこぶしも、割れんばかりの拍手もなかった。
●悲痛すぎる父の日
1分間の黙祷の後、被害女性(20)の父親のメッセージが読み上げられた。
「なぜ娘なのか。なぜ殺されなければならなかったのか」
この日はくしくも「父の日」。こんなにも苦しくて悲しい父親の言葉に、会場は一層静まり返った。
大会中盤、壇上に現れた玉城愛さん(21)は声を震わせた。
「もしかしたら(被害者は)私だったかもしれない」
ウォーキングをしていただけの女性が突然蹂躙された今回の事件。住み慣れた街を安心して歩くこともできないのか。被害女性と同じ沖縄県うるま市に住む大学4年生の言葉は、基地の暴力におびえる沖縄県民の悲痛な叫びを代表していた。
国際基督教大学4年の元山仁士郎さん(24)は「憲法がうたう国民に県民は含まれているのか」と問いかけ、こう続けた。
「ただ普通にこの島で生きていたいだけなのだ。このような事件がもう二度と起きないように、普通に暮らせる社会を私たち一人一人がつくっていこう」
その会場の前方で、壇上をじっと見つめている外国人女性がいた。手には、「私も米軍レイプ被害者」というボード。
この女性は、オーストラリア出身のキャサリン・ジェーン・フィッシャーさん。1980年代に来日し、2002年に神奈川県横須賀市内で見知らぬ米兵からレイプされた。知人との待ち合わせ中に飲み物にドラッグを入れられ、意識がもうろうとする中で襲われた。
●尊重すれど従わず
それなのに、刑事事件としては不起訴。民事訴訟を起こしレイプが認定され、300万円の支払いを命じる判決を勝ち取った。ただ、加害者は審理の途中で米国に帰国し、支払いを逃れた。フィッシャーさんの前に立ちふさがったのが、日米地位協定の「壁」だった。