人気の戦国武将・真田幸村。イケメンかと思いきや……。歯も抜けた、さえない男性だった。それがなぜ、輝くスーパースターになったのか。
最近、巷にあふれる幸村は例外なく、「イケメン」だ。ゲーム、マンガ……そしてNHK大河ドラマ「真田丸」で真田信繁(幸村)役を務める堺雅人さんも、言うに及ばずだろう。
きっかけは、人気アクションゲーム「戦国BASARA」シリーズ(カプコン)だ。コンピューターで描かれたゲーム中の幸村は、アイドル顔負けのイケメンぶり。真っ赤な鎧を身にまとい、細面で、優しさも感じさせる。女子が「胸キュン」するというのもうなずける。
2005年に発売されると、幸村は伊達政宗と並んで人気のキャラクターの一人になった。今年3月までにシリーズ累計で380万本を売り上げた。購入者の4割近くは女性で、「歴女」ブームの火付け役ともされている。
しかし、幸村の実相は少々、異なるようだ。上田市立博物館(長野県)が所蔵する「真田幸村画像」では、幸村はちょびひげを生やし、温和な表情を浮かべ、裃(かみしも)姿で座っている。小柄な印象も受ける。とてもイケメンとは思えない。
描かれた時の幸村の年齢は不詳だが、幸村は46歳のころには、歯も抜け落ちていたという。当時、姉婿に送ったとされる、こんな書状が残っている。
「去年より俄(にわか)にとしより、殊(こと)の外(ほか)病者に成り申し候(そうろう)。歯なども抜け申し候。ひげなどもくろきはあまりこれなく候」
病気がちで、歯が抜け、ひげの白髪も増えた……イケメンどころか、貧相な容姿だ。
一体なぜ、これが「輝くスーパーヒーロー」になったのか。歴史研究家で、幸村の直系子孫でもある真田徹さん(67)はこう話す。
「江戸時代になって書かれた軍記物の『難波(なんば)戦記』が一つのきっかけとなり、ヒーロー幸村は生まれたと見られています」
『難波戦記』は、豊臣秀吉が造った大坂城をめぐる冬の陣と夏の陣を描いた壮絶ドラマだ。この中で幸村は、英雄・豪傑として大活躍する。徹さんは、「徳川幕府への不満を募らせていた庶民が、幸村にヒーロー願望を投影させたのではないか」と見る。(アエラ編集部)
※AERA 2016年5月16日号より抜粋