「コーエン兄弟とは4、5回共作しているが、何度もオトボケ役を演じた。今回はそれに輪をかけ、愚かしいスターを演じることになった。脚本を渡された時はまたまた驚いたよ。『バーン・アフター・リーディング』に出演したときも、『この役は君を想定して書いたんだ』と言われたんだけれど。あの役は地下室にセックス・トイを隠しているような男でね。それが僕を想定して書いた役なの? そんなふうに思われているのかな、と複雑な気持ちになった」と大笑いする。

 撮影中に台詞を忘れたり、出番待ちに誘拐されたり、ウィットロックはかなりトホホな大スターなのだ。ところでクルーニー自身、これまでの映画の撮影中に、事件が起きたことはあるのだろうか。

「『シリアナ』を撮影したときに、脊髄を痛めて12時間に及ぶ手術を受けたことがある。でも命に別条はなかったけれどね」と大変な過去を語った。この「シリアナ」では製作総指揮を務め、監督として自らメガホンを取った経験も何度かあるクルーニー。監督という立場から、コーエン兄弟を高く評価する。

「二人のやること何もかもが僕には勉強になるんだよ。自分が監督する時、彼らのやること全てを拝借しているよ。学ぶんじゃなくて、盗むんだ。発案や手法が素晴らしい。それに現場でてきぱきと撮影をこなす方法とか。何しろ僕はコーエン兄弟の大ファンだから。監督として何かを学びたいと思った時、コーエン兄弟以上に理想のお手本はあまりないよ」

(ライター・高野裕子(ロンドン))

AERA  2016年5月2日-9日合併号より抜粋