「アナキンは、突然ダークサイドに目覚めたわけではない。一つ一つの選択を重ねていった末のことでした」
個々の選択には共通点がある。
「短期的な判断を繰り返していった結果なんです」
ジェダイには掟がある。「喪失が怒りへとつながる」恋愛は厳禁だ。しかし、アナキンはこれを破って女王パドメと恋仲に。結婚し、パドメが妊娠すると、アナキンは「彼女が死ぬのではないか」という悪夢にうなされる。不安に駆られたアナキンを惑わせたのが、ダークサイドの親玉、パルパティーンの言葉だった。
「人を死から救う力がある」
これは虚偽だった可能性があるのだが、アナキンは妻を救いたい一心でダークサイドにすがる。確かに、目先の苦しさから逃れるための選択が続いた。夏野さんによれば、
「VWが重ねた判断も同じだった。経営学でも、短期的な判断を繰り返していくとどこかで失敗する」
VWにとって、短期的な目標は販売台数のアップ。成長市場の北米で台数を伸ばすためには、厳しい排ガス規制をクリアしなければならなかった。
しかし、これには技術とコストの両面で壁を突破する必要がある。ジェダイとして成熟するのと同じように時間がかかり、簡単ではない。そこで不正プログラムというダークサイドの力にすがった。
厄介なのは、転落の意識がないケースがあるということだ。
「VWも、最初から悪事を働こうと考えていたわけではないのでは」(夏野さん)
困っている同僚を助けたい。もしかしたら、最初の「転落」の際はこんな思いが頭をよぎったかもしれない。
古代ローマの英雄、カエサルは言った。
「地獄への道は善意で舗装されている」
短期で結果を出すことが求められる昨今。現場は近視眼的になりがちだ。だからこそ、経営者はもっと先のゴールを思い描かなければならない。先を見ているからこそ、現場の過ちに気づくことができるのだ。
※AERA 2015年12月21日号より抜粋