シリアのISから「テロ指令」が出ても、それだけではテロは起きない。作戦を練り、資金を集め、実行犯を選び、武器弾薬を用意し、現場を踏むといった膨大な作業が必要となる。「首謀者」として名前が挙がったベルギー・ブリュッセル生まれのアブデルアミド・アバウド容疑者(27)は、欧州にいるのかシリアにいるのか、所在が不明だ。シリアにいるのなら、遠隔操作でパリのテロを仕切ることはできない。別の「首謀者」がパリに必要となる。
ISは本当に、テロを主導したのだろうか。ISが出した「犯行声明」は、「十字軍フランスへの喜ばしい攻撃についての声明」というタイトルだ。しかし、「カリフ国の戦士がつくる敬虔(けいけん)な8人のグループが、自動小銃と爆弾ベルトを身に着けて、選別された標的を攻撃した。ドイツとフランスの試合が行われていた試合場で、そこにはオランド(仏大統領)がいた……」などと、まるでテレビを見て書いたような内容。声明にある「8人のグループ」は、当初警察が発表した「死んだ実行犯の数」。後に7人に訂正された。
一方、シナイ半島のロシア機墜落では「ISシナイ州」が、「ロシア機を墜落させた」 と犯行声明を出していた。
当初、声明はミサイルによる「撃墜」と読まれ、誰も信用しなかった。しかし、爆弾テロだと判明して、IS声明は信憑性を帯びてきた。
ただ、IS本部が「ロシア機を狙え」と指令を出したとしても、実行は至難の業。ロシア航空機が飛び立ったシナイ半島のリゾート地シャルム・エル・シェイク国際空港では、エジプト当局が厳しい治安対策を取っている。ロシアがテロと発表した後、エジプト当局はシャルム・エル・シェイク国際空港の職員2人を逮捕した。IS系過激派が空港関係者を取り込んで、爆弾を飛行機に積み込んだのだとしたら、その脅威は計り知れない。パリ同時多発テロでも、本当の脅威はISの指令ではなく、パリで実際にテロを起こした実行犯たちの組織力である。
※AERA 2015年11月30日号より抜粋