エプソムカレッジ・マレーシア
学校の食堂。校内は日光を取り入れた明るい作り。寮生はここで3度の食事を取る(写真:エプソムカレッジ・マレーシア提供)
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学校の遠景。空港から近いので海外と行き来するには便利だ(写真:エプソムカレッジ・マレーシア提供)
寮の2人部屋。このほかに4人部屋、個室があり、最高学年に近づくと個室で勉強に専念するという(撮影/野本響子)

 わが子に最良の教育を、と莫大な投資をして海外で学ばせる選択肢もある。欧米のボーディングスクールが進出するアジアが、いま熱い。

 マレーシアのクアラルンプール国際空港からほど近いセパンの新興住宅地。「最上の英国式教育をマレーシアに」をモットーに開設された、エプソムカレッジ・マレーシアがある。20ヘクタールの広大な敷地に、3~18歳までの300人が学ぶ。

 昨年からここで学ぶリョウさん(仮名、13)は、東京の公立小学校を卒業後、親元を離れ一人マレーシアに来た。現在は同校のYear10(中学3年)。敷地内の寮の2人部屋でルームメートの中国人と生活している。母親の幸田フミさんは東京でIT企業を経営する。

 彼の一日は忙しい。朝は5時に起床。7時まで好きなパソコンで動画を見たりして過ごす。7時45分からは寮のフリースペースで寮生たちと室内ホッケーや卓球など。朝から遊ぶのは「テンションを上げるため」。日本人の友達はほぼいないため、英語ですべての時間を過ごす。

 その後、歩いて数分の学校に移動。8時半から授業開始だ。15時半まで、2回の休憩を挟んで7コマの授業がある。日本と違い、「考えさせる」授業が多いという。

「日本だと先生が答えやどう考えるかまで説明するけど、こちらはネットや図書館で調べてこい、と生徒に考えさせる。だからエキサイティングで楽しい」とリョウさん。理解が難しい授業もあるし、いまだに英語がわからないこともある。だがリョウさんは、英語とともに、中国語とフランス語も学んでいる。

 授業が終わるとすぐにCCAと呼ばれるクラブ活動だ。クラブ活動も重視しているため、毎日二つの活動を取らなければならず、かなり大変だ。リョウさんは卓球、サッカー、水球、バドミントン、チェス、IT、ヨガなど10種類をこなす。

 夕食後は寮のミーティングルームに集合し、20時45分までは勉強時間。宿題の量も膨大で、なかには、ポスター作りのような制作もある。土曜日も授業があり、日曜日だけが自由な日だ。

 リョウさんは、幼児期からの英語教育は受けていない。米国の大学で学んだ経験がある母親のフミさんは、日本でリョウさんが小学生だったころ、周りの親の多くが中学受験に熱心になるのを見て、疑問に思った。

受験教育だけでは本人が困ると思い、生きるための勉強の場として、海外に出すことを決めました。エプソムは学習科目が多く、アートや音楽、スポーツにも力を入れている。うちは母子家庭なので、息子は私に何かあったら一人で生きていかなければならない。将来のことは本人に任せますが、いまの教育なら、学歴がなくても生きていけます」

 リョウさんは毎日、周りの生徒たちの個性に負けないよう必死だという。

「とにかく目立たないと生き残れない。おかげでシャイな性格がだいぶ変わりました。正直つらいけれど、いまやっていることは、すべて将来の役に立つという確信があります」

AERA  2015年11月9日号より抜粋

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