
『ハーヴェスト』からシングルカットされた「ハート・オブ・ゴールド/孤独の旅路」が全米1位を記録したのは1972年3月18日のことだ。本人にしてみれば、まさに「図らずも」といった感じだったに違いない。普通のアーティストなら「やったね!」となるはずだが、ニールは状況や環境の劇的な変化を不快なものとして受け止め、以来、かなり強く意識して商業的成果や一般的な意味での名声と距離をおくようになる。そういった意識や姿勢を明確に打ち出したものとして最初に届けられたのが、2枚組の『ジャーニー・スルー・ザ・パスト/過去への旅路』だった。記録によれば、米での発売は72年11月。
同郷のロビー・ロバートソンをはじめ、映画からさまざまな形で刺激を受け、多くのことを学んだと語るロック・アーティストは少なくない。ニールも例外ではなく、たとえば『ハーヴェスト』収録の「ア・マン・ニーズ・ア・メイド」は直接的にスクリーンのイメージとつながるものである。そして、ちょうどその曲を録音していたころ、彼はシェイキー・ピクチャーズという名前の映像制作プロジェクトを始動させていた。『ジャーニー~』は、その第一回作品のサウンドトラック・アルバムとして制作されたものだった。
78分の映画は、バッファロー、CSNY、『ハーヴェスト』録音時などのライヴ/ドキュメンタリー映像と、ドリーム・シークエンスとでも呼ぶべきか、ニールの内面を色濃く反映させたオリジナル映像をコラージュしたもの。合理的な説明などは拒絶するかのような、いかにもニールらしい作品だ。
フィルム・フェスティバルで初公開は73年春。つづいて、いくつかのいわゆるアート系劇場で上映されたものの、酷評され、あるいは無視され、シェイキー・ピクチャーズの記念すべき第一回作品は封印されることとなってしまう。
アルバム『ジャーニー~』には、「オハイオ」、「サザン・マン」、「ワーズ」、「アラバマ」といった名曲がオリジナルとは異なる形で収められていて、この時点までの総集編的作品として聴くこともできるのだが、残念ながらCD化は実現されていない。ただし、映像本体に関しては、09年発表『アーカイヴVOL.1』によって、ようやく、その全体像に触れることができるようになった。[次回7/1(月)更新予定]

