家庭などで無駄なものを捨てる「断捨離」がブームとなったが、これは企業で取り入れることもできそうだ。さまざまなものを切り捨てることで、見えてくるものもある。あるメーカーの取り組みを追った。
さまざまな工場で使われる「精密位置決めスイッチ」で世界トップシェアを誇る、スイッチメーカーのメトロール(東京都立川市)は、独自の「断捨離」を行っている。
まず、管理部門がない。さすがに入出金を行う経理担当はいるが、総務課も人事課も「全く必要ない」(松橋卓司社長)。人事評価をするのは上司。採用だって、製造やマーケティング部門から選ばれた社員に任せる。
事務所や工場にはパーテーションもない。別の部署にいる担当者に用事があるとき、例えば工場では吹き抜けに顔を出して「おーい」と叫ぶ。
社内メールもない。メールアドレスは与えているが、社内でのメールは必要なファイルを送るなど例外を除き、原則禁止。面と向かってのコミュニケーションを活発にしたいからだ。
最近、82歳の社員の技術が元になり新商品が生まれた。空圧技術の専門家だったが、74歳のとき、65歳以降も働けるメトロールに転職してきた男性だ。
彼の技術は決して最先端ではなかったが、ふと話した20代の社員が注目。ディスカッションを重ね、今でも使える技術にリメイクし、日本の自動車メーカーなどに採用される大ヒット商品になった。
「人件費が世界トップクラスの日本では、ルーチン作業ではなく、クリエイティブな力で勝負せねばならない。そのために必要なのが社員同士のカジュアルな交流で、それを阻害するものは全て取り払うのです」(松橋社長)
メトロールには、約130人の社員に対して会議室はたった二つ。その代わり、社内の至るところに設けられたフリースペースで、オープンに話す。飲み放題のコーヒー片手に、社内のあちこちで議論に花が咲いている。
※AERA 2015年10月12日号より抜粋