日本人の4人に1人が65歳以上になったいま、介護は誰にとっても切実な「課題」だ。この分野で起業したaba(アバ)の宇井吉美社長(26)には、大学時代の実体験に基づく強い問題意識があった。
介護機器を研究しようと千葉工業大学に入って2年目。実習の一環で、東京都内の特別養護老人ホームを訪れた。トイレから、「ウワーッ、ウワーッ」という女性の叫び声。デイサービスを利用する認知症の女性を介護士が2人がかりで押さえつけ、おなかを圧迫してむりやり排泄させようとしていた。
宇井さんが泣きながら「これは本人が望むケアですか」と尋ねると、介護士の返事は「わからない」。自宅での排泄介助は大変だから、と家族に「排泄させてから帰して」と頼まれているのだという。
abaが開発するのは、においセンサーで排泄を検知するシート「リフィルム」。蓄積したデータを分析して排泄の周期を予測する機能もある。
おむつを開けなくても排泄したことが分かるうえ、タイミングを見てトイレに誘導し、自力での排泄を促すこともしやすくなる。おむつが便や尿でむれている時間が長いと床ずれの原因になるが、定期的におむつを開けて排泄の有無を確認することは、介護する人、される人、双方にとって、負担が大きい。リフィルムなら、こうした問題を一気に解決できる。
介護に関心を持ったのは、うつ病になった祖母を家族で介護した中学生のころ。大学でリフィルムの原型の開発に取り組み、ビジネスプランコンテストに出たら入賞。卒業直前だった11年に、大学の仲間と起業に踏み切った。
宇井さんは自らおむつを身に着けて実際に排泄するテストも繰り返しながら、来年秋ごろの発売に向けて開発作業の詰めを急いでいる。
※AERA 2015年8月24日号より抜粋