イラク出身の建築家、ザハ・ハディド氏の案が白紙撤回された新国立競技場。コストに厳しい視線が向けられるなか、とっておきのプランがある。
建設が待ったなしの新国立競技場。年明けの着工を目指すことになったわけだが、ザハ氏が参加継続を表明し、8万人座席の常設化案が再浮上するなど、早くも綱引きが始まった。そんななか、現実味を帯び始めた“変化球プラン”がある。その名も「国立競技場1964再生」。新国立の建設問題に詳しく、この案を推す建築家の森山高至氏は、理由をこう説明する。
「旧国立競技場の図面が残っています。伊勢神宮の式年遷宮と同じやり方で、旧国立の姿をそっくりそのまま、近代建築として復活させる方法が現実的です」
利点は多い。一つは新たな設計がほとんど不要となる点だ。
「時間が限られるなか、一から設計するとなれば大概は尻込みします。復元であれば、技術と努力の問題だけ」(森山氏)
外観は同じでも、使う素材や耐震強度は進化し、旧国立時代に「造っておけばよかった」と悔やんだサブトラックなどの設備も追加できる。もちろんシンプルな構造ゆえ、総工費も大幅に安くなるというわけだ。
ザハ案に反対してきた建築家、槇文彦氏(86)は言う。
「ポスト五輪こそ重要。そのために国民が納得できる施設の設計条件が透明性ある中で選ばれ、決定されないといけない。高齢化で税収も減る。身の丈をよく考えるべきだ」
いずれにしろ、2020年東京五輪の開幕まで残り5年。しかし、白紙撤回以降も、文部科学省方面からは「間に合わない」といった声が聞こえてくる。
旧国立再生プランを推す前出の森山氏は、一喝する。
「『間に合わない』と言う理由は、これまでモタモタした時間を同じだけまた使うと思っているから。彼らの経験値はそれだけ。間抜けな時間がもう一回かかると思っているだけです」
※AERA 2015年8月3日号より抜粋