社員の健康を重要な資産とみなす「健康経営」の考え方が浸透してきた。健康な社員を増やすため、ユニークな取り組みを行う企業もある。
事務機器大手イトーキの東京イノベーションセンター「SYNQA」(東京・京橋)。300人の社員が働くオフィスには、さまざまな高さのデスクが並ぶ。これは、オフィスで働きながら健康増進を目指す「ワークサイズ」の一環だ。
机の高さに比例して、デスクワークの消費カロリーは上がるという。32人の社員が1日2時間、天板の高いデスクを使って立ち仕事をする実験をした。すると、ウエストが6週間で平均0.8センチ細くなった。
ほかにもオフィス内には、廊下に身長に合った歩幅がマーキングされていたり、ストレッチポイントが設けられていたりと、小さな工夫がちりばめられている。ワークサイズを提案したR&D戦略企画部の高原良さんは胸を張る。
「一つ一つの取り組みは小さくても、オフィスでのちょっとした心がけが積み重なり、効果につながるのです」
「1キロ5千円」のダイエット手当制度を設けているのは、スマートフォン向けゲームアプリなどを手がけるバンク・オブ・イノベーションだ。執行役員の高橋信也さんは、
「成長に必要な要素を考えたとき、健康というキーワードは必ず出てくる。クリエーターやエンジニアはどうしても不摂生になりがち。サポートしないといけません」
エンジニアの岡本敦勇(あつお)さん(31)は制度を利用して、13キロのダイエットに成功した。手にした6万5千円分の商品券で細身の服を買いそろえ、髪を茶色く染めた。
「目覚めが良くなり、むだな体力を消耗しなくなった。仕事のパフォーマンスも上がりました。彼女は、これからです」
健康経営研究会の岡田邦夫理事長は、感慨深げに言う。
「40年も前に大阪ガスの社長だった安田博さんが言い出した考えを受け継ぎ、健康経営として啓発してきて、ここ数年でようやく興味を持ってもらえるようになりました。社員を大切にして育てていかないと、企業そのものが病気になる。健康への予防的投資の時代が来たんだと思います」
※AERA 2015年7月20日号より抜粋