アエラにて好評連載中の「ニッポンの課長」。
現場を駆けずりまわって、マネジメントもやる。部下と上司の間に立って、仕事をやりとげる。それが「課長」だ。
あの企業の課長はどんな現場で、何に取り組んでいるのか。彼らの現場を取材をした。
今回は東京都下水道局の「ニッポンの課長」を紹介する。
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■東京都下水道局 第二基幹施設再構築事務所 設計課長 武藤真(41)
東京23区の地下最深部を走るのは、下水道管だ。網の目のように地中に張りめぐらされている。総延長約1万6千キロは、東京~シドニー間の往復距離にも匹敵する。そこを流れて処理される汚水の量も膨大で、1日あたり東京ドーム4杯分にもなる。
下水道管は汚水を流すだけでなく、浸水対策の役割も担う。「ゲリラ豪雨」のときなどに雨水を流し、浸水被害を防ぐのだ。東京都下水道局の設計課長、武藤真が今、建設に取り組むのは、麹町から勝どきのポンプ所まで延びる「第二溜池幹線」。地下40メートルに最大直径8メートルの管を通す。
「1時間に50ミリまでの雨に対応できます」
と武藤。現在、霞が関1丁目の地下部分の仕上げ工事をしている。これまでは一定量以上の雨が降ると、汚水混じりの雨水が下水道管を通り、それらが皇居の内堀や東京湾に流れ込んでいた。この幹線ができると、勝どきポンプ所で一部を処理して流すため、水質の浄化にもつながる。
下水道の設計で難しいのは、東京の地下の「過密さ」だ。地上に林立するビル群や交通網もさることながら、地下には地下鉄、通信線、送電線、上水道などが複雑に交錯する。
「その網に当たらないように工事をしなければならない。難度は上がっています」
東京大学大学院工学系研究科の修士課程を修了し、都庁の下水道局職員になった。環境省やUR都市機構などへの出向も経験しながら、3年前に下水道局に復帰した。
「老朽化は下水道でも進んでいる。耐震性も要る。突発的な集中豪雨も増える。誰かがやらなければ」
現代東京の地下で下水道を掘るのは、世界屈指の難度。磨かれた技術は、世界最高レベルに達した。その技術を駆使して難題をクリアすることに「正直、燃えるものがあります」。(文中敬称略)
※本稿登場課長の所属や年齢は掲載時のものです
(編集部・岡本俊浩)
※AERA 2015年3月30日号