アエラにて好評連載中の「ニッポンの課長」。
現場を駆けずりまわって、マネジメントもやる。部下と上司の間に立って、仕事をやりとげる。それが「課長」だ。
あの企業の課長はどんな現場で、何に取り組んでいるのか。彼らの現場を取材をした。
今回は日立製作所の「ニッポンの課長」を紹介する。
* * *
■日立製作所 交通システム社 笠戸事業所 車両製造部車両第2課課長 鵜原 治(48)
日本で走る電車よりも一回り小さいだろうか。真新しい白い車両の正面に黄色いライン。日立製作所の笠戸事業所(山口県下松市)でつくるこの列車は、英国へ輸出される車両。すでに出荷は1月から始まった。
ロンドンとウェールズ、スコットランドをそれぞれ結ぶ主要幹線の老朽車両866両(122編成)を置き換える。総事業費57億ポンド(約1兆円)は英国鉄道史上最大級。それを日立が2012年7月、官民連携で射止めた。
納める車両は、軽量アルミ素材を使った最新鋭の車両「Class800シリーズ」。27年半にわたる保守事業も受注した。笠戸事業所では12編成をつくり、残りは英ダラム州に建設中の現地工場で製造する。ここから欧州のほかの鉄道車両の受注も視野に入る。
「笠戸事業所を『世界一のマザー工場に』というスローガンがあるので、責任重大です」
そう話すのは、構体が組み上がった車両に機器や配線、内装を取り付ける「艤装」の管理責任者、鵜原治だ。協力会社のスタッフを含む約600人を束ねる。山口県立下関工業高校の電気科を卒業して日立に入社。すぐに日立の企業城下町である茨城県内の工場に配属され、「日立精神」を培った。笠戸事業所には1989年から勤務する。
いま力を入れているのは、製造工程の「伝承」。ポイントを英国の現地工場の作業者に伝えるため、組み立て作業を映像で撮影し、人的ミスをなくす仕掛けづくりもしてきた。
「細かい指示やノウハウは、口や紙で伝えるよりも、映像で伝えるのが一番ですから」
ボルトの締め方一つにも気を配る。ボルト一本一本の締め付ける力を自動管理するシステムを、工具メーカーと共同開発した。こうしたシステムが、英国での生産や保守作業に生かされる。
4月からは、いよいよ英国の主要幹線でClass800が試験運行する予定だ。(文中敬称略)
※本稿登場課長の所属や年齢は掲載時のものです
(ライター・西元まり)
※AERA 2015年3月23日号