「空港より快適な場所を鳥に用意すればいいのではないか」
「鳥を誘導するのに、話題のドローンを使うのはどうだろう」
チーム名は“Birdport”に決定。方向性は定まった。次に、宮谷さんは、親友で大学院修士2年の木村元紀さん(24)を誘った。「東大屈指のプログラミングスキル」を持ち、ドローンを使う映像解析を研究していたからだ。
チームは5人まで。残り1枠に、上西さんと中村さんは、同級生でタイ人のスクリット・ウィナヤウェーキンさん(22)を引き入れた。エアバスはダイバーシティー(多様性)を重視するからだ。スクリットさんは、高校から日本で過ごし、日本語ができることもポイントだった。
コンテストの審査は3段階で行われた。まず、昨年11月末にリポート用紙2枚程度の論文を提出し、これで100チームに絞られた。第2ラウンドは年明けから3カ月ほどで、5千語の英語の論文と、2分間の映像をまとめなければならなかった。
途中、スクリットさんが家族の事情でタイに帰国を余儀なくされたり、提出期限2時間前にパソコンがオーバーフローしたりと、予想外のハプニングに見舞われたものの、チームワークでカバー。見事、第3ラウンドへの出場権を手に入れた。
最終選考は、20分間の英語のプレゼンテーションだった。入念に「台本」を準備し、エンターテインメントの要素を取り入れた。例えば木村さんの紹介は「ドローンフリーク」。スクリットさんは鳥を愛でる平和主義者といったキャラクター設定だ。
「ああ、鳥のパラダイス! でも、どうやって行くの?」
「心配ご無用。ドローンを使えばいいのさ」
本番では、絶妙の掛け合いで会場を沸かせ、万雷の拍手のうちに終了。入賞へ自信を得た。だが結果は、オランダの大学のインド人チームが優勝。飛行機の羽の振動から電気エネルギーを生み出し、胴体で蓄電するアイデアだ。
「あなたたちもよくやった。プレゼンは面白かったし」
審査員は東大チームをねぎらったが、表彰式後のディナーの席はお通夜のようだった。
「人生には負ける経験もあるんだよ」(宮谷さん)
「いつかリベンジしたい」(上西さん)
※AERA 2015年6月22日号より抜粋