好きだからこそ突き詰められることがある。ひとつのことに熱中する、オタクの情熱が人生のやる気を増大化させることもあるようだ。
「彼」との出会いは3年ほど前。国立科学博物館(東京・上野)の展示室だった。
息をのむほどの圧倒的存在感。
「かっこいい」
彼の名はトリケラトプス。約7千万年前の白亜紀後期に生息した3本角の恐竜だ。実物化石の芸術的な曲線に魅了された。
「恐竜の骨って美しいんです」
そううれしそうに語るのは、小学館・図鑑NEO編集部の大藪百合さん(28)。恐竜図鑑の担当になり、「勉強に」と訪れた博物館で恋に落ちてしまった。
「なぜ、体が大きいのか? なぜ、しっぽは長いのか?」
彼らをもっと知りたい思いが、次々と湧き上がってくる。恐竜本を片っ端から読み、朝起きたら化石などの新発見がないか、科学誌サイトをチェック。さらに資料を読むだけでは飽き足らず、研究者が集う「日本古生物学会」の講演を聞きに行ったり、白亜紀前期の地層がある福井県北谷層での発掘調査に参加したり。“仕事スイッチ”は四六時中オンになった。
「結局、恐竜の真実は誰にもわからないから、あれこれ推理できる。それがロマンなんです」
そんな大藪さんは現在、妊娠8カ月。定期検査でおなかの様子をエコーで見たとき「人間の大腿骨って恐竜のものと似ている」と、2億年前から続く生命の進化に感動したという。
「小さなことに一喜一憂しなくなりました。ホモ・サピエンスの歴史は20万年ほど。恐竜のそれに比べたらまだまだ。人も、もっと進化していかなくちゃ」
恐竜への情熱が、仕事や人生への探求心や向上心に転化されている。
※AERA 2015年5月18日号より抜粋