小学生のころ、父に連れられて近くの川の水質を調べてみると、面白かった。総合学習の時間には、一人で山に行ってヘビの生態を観察した。近所にどんな飼い犬がいるかを調べるために、かたっぱしからピンポンを押したこともあった。少女は、根っからの「研究者」だった。

 さらに背中を押したのは、高校1年のときの担任と、農業研究者だった叔父だ。「料理人か研究者になりたい。文系か理系、どちらに行けばいいですか」と担任に相談すると、化学が専門だった担任は、「料理も化学だから理系に行ったらいい」と答えた。叔父には、将来を決める言葉を掛けられた。

「人はガソリンでは動かない。農業は命の源を生み出すんだ」

 東京農工大学に進み、畜産を学んだ。「少ない餌で鶏卵の黄身を大きくする」ための研究で修士号を取り、希望通りに研究職に就いた。研究を通して物事の真実を解き明かせることが、一番の幸せだという。

「知り合いの研究者は、作物の声が聞こえるらしいんです。それは、微妙な変化に気づく観察力を持っているから。自分も早く、その域に達したい」

(文中敬称略)

AERA  2015年5月18日号より抜粋