体への暴力だけではなく、精神的な暴力も含まれるDV。心に加えられた暴力は、被害者を深く傷つける。また精神的な暴力の場合、加害者が自覚していないケースが多く、より更生にたどり着きにくい。
夫と別居して子どもと暮らすある女性にとって、夫からの暴力は経済的な支配から始まった。温和なところにひかれて結婚したが、夫は、女性の結婚退職と出産を機に家計を握り、態度も高圧的になっていった。
エリートで十分な収入があったはずなのに、理由をつけて給与を実際より大幅に低く伝え、ぎりぎりの生活費しか渡してくれない。夫自身は存分に小遣いを使うのに女性への小遣いは認めず、使い道はすべて夫の承認が必要。雑誌一冊、ユニクロの服一枚も、自由に買えなかった。
「ご主人、もっともらってない?3年も同じの着ているよ」と不思議がる友人もいたが、「女は倹約するもの」という母の口癖が思い出され、従い続けた。交際費や家計で足りない分は結婚前の預金を引き出した。それでも、夫は「買ったんだ?」と聞いてきた。
数年後、夫は職場環境の変化を機に、身体的な暴力も振るうようになった。だが、傷は証拠として残ると知った夫は、しばらくして言葉による暴力に切り替え、「お前が悪い」と連呼するように。夫の態度は、正しい自分が、ダメな妻を矯正する、という姿勢だったという。
別居にこぎつけた後も時間帯や曜日を問わず、メールや電話で嫌がらせが続いた。どれもDV防止法の保護命令の対象にはならない、すれすれのラインだったという。
「夫は、おそらく自分の仕事での憂さ晴らしと、俺は偉いんだぞというプライドを保つために、やっていたんだと思います。身体的暴力より言葉の暴力のほうが長くダメージが残りました。それでも、もしかしたらいつか治るのではと、どこかで思っていました」
DV被害者・加害者支援を行う「アウェア」の事務局長、吉祥眞佐緒さんはDVの当事者たちの特徴をこう話す。
「最初に双方に面談をしますが、加害者は当初、まったく自分の加害行為に気づいていません。『自分は被害者だ』と言い張ります。逆に加害者からのDVで罪悪感を抱かされた被害者が『自分は加害者ではないか』と相談してきたりします」
※AERA 2015年2月23日号より抜粋