「人間のあらゆる行動には前例がある。迷ったときは歴史を学べばそこに答えがある」と出口さん(撮影/今村拓馬)
「人間のあらゆる行動には前例がある。迷ったときは歴史を学べばそこに答えがある」と出口さん(撮影/今村拓馬)

 あらゆる歴史本を読みこんできたというライフネット生命CEO兼会長・出口治明さん。そんな出口さんに、管理職にこそ読んでほしいというオススメ歴史本を聞いた。

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 管理職には素早い決断力が求められます。まず薦めたいのは、唐の太宗の言行録で、古来、帝王学の教科書とされてきた『貞観政要』です。私自身、年に5、6回ほど、様々な企業の30、40代の社員が参加する『貞観政要』の寺子屋風の素読会を開いています。上に立つ人間がどう考えるべきか、ビジネス書よりもためになるという感想が寄せられています。

 天皇陛下は年初のお言葉で「満州事変に始まるこの戦争の歴史を十分に学び、今後の日本のあり方を考えていくことが、今、極めて大切」とおっしゃいました。

『キメラ―満洲国の肖像 増補版』は満州国に凝縮してあらわれた近代日本の理念について、問いなおす試しの一冊です。管理職の方々には、こうした日本の歴史を自分の問題として考えてもらいたい。

 世界経済の大きな流れが理解できない管理職に意味はありません。『戦後世界経済史』は、戦後経済の大きな流れを「市場化」を軸に深い洞察力で分析した新書ながら力強い本です。現在の世界は第2次世界大戦後、米ドルを中心としたブレトンウッズ体制の延長線上にある。こうした事実と向き合い、自分の考えを深める手助けとなってくれることうけあいです。

『定本 想像の共同体』は管理職の必読書です。私たちは「国」と簡単に口にしますが、国民国家が生まれたのはそう昔のことではありません。フランス革命の際、アジビラで初めて「国民」という呼びかけがなされましたが、メディアを通じてできあがった想像の共同体こそが国民国家の正体である、とその本質を喝破したのが本書です。

AERA 2015年2月16日号より抜粋