日本酒が入ったグラスをくるくる回しているうちに、自然と会話も弾む。「こういうの、いいよね」と女性客がぽつり(銀座・サキホールで) (撮影/写真部・東川哲也)
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日本酒が入ったグラスをくるくる回しているうちに、自然と会話も弾む。「こういうの、いいよね」と女性客がぽつり(銀座・サキホールで) (撮影/写真部・東川哲也)
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「フルーティーなカクテルが飲みたい」。バーテンダーは「MOTOZAKE」を取り出し、即興でグレープフルーツ(左)とオレンジを使ったカクテルを作った(撮影/写真部・東川哲也)
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「フルーティーなカクテルが飲みたい」。バーテンダーは「MOTOZAKE」を取り出し、即興でグレープフルーツ(左)とオレンジを使ったカクテルを作った(撮影/写真部・東川哲也)

 世界の和食ブームを追い風に、ぐっと魅力の幅が増した日本酒たち。その魅力を伝えるべく奔走する人々がいた。

 カクテルグラスを傾けると、グラスの中でサーモンピンクの液体がさらりと揺れた。東京・銀座、地下1階のダイニングバーは、若い女性やカップルでにぎわっていた。照明を少し落とした店内は、木目調で統一されているせいか、どこか懐かしい雰囲気が漂う。

 ここは、2011年にオープンした「SAKE HALL(サキホール)」。同店をプロデュースした環境開発計画の山本利晴さん(38)いわく「刺し身もおちょこもない」、日本酒カクテルの専門店だ。

 バーである以上、ビールや洋酒を置いてはいるが、メインは日本酒。その証拠に、店のコンセプトに賛同した司牡丹(高知)、吉乃川(新潟)など7蔵元をモチーフにした個室が用意されている。通路を歩けば小さな横丁に迷い込んだような錯覚に陥る。

 そんな佇まいの中、客が手にしていたのはワイングラスやトールグラスだ。飲んでいるのは日本酒ベースのカクテル。日本酒と相性がいい酒粕や麹に漬け込んだチーズや焼き物といったおつまみがテーブルを彩る。

「冷やや熱燗だけでなく、炭酸水で割ったり、季節の果汁をブレンドしたり。日本酒を自由に楽しむ“ムーブメント”をバーから発信したくて」(山本さん)

「獺祭」ブームなどを背景に、日本酒バーは増えつつある。しかし一方で、日本酒を取り巻く環境はといえば、1970~80年代のピーク時に150万キロリットル以上あった消費量は年々減少、2010年度以降は3分の1近くにまで落ち込んだまま(国税庁「酒のしおり」から)。人気が復活したとは言い難い。これを何とか救いたいと、山本さんはバーを開店した。

「日本酒は洋風のバーに合わないと敬遠している全国のバーテンダーが店に置くようになれば、輸出を上回るビジネスになる。日本酒には、大きなポテンシャルがあるんです」

 バー用にと、カクテルベースになる日本酒を「MOTOZAKE(基酒)」と命名し、流通に乗せた。洋風に変えたボトルが、バーカウンターにしっくり溶け込む。

「カンパーイ!」 

20代らしき女性3人組が、日本酒と炭酸水を1対1で割ったカクテル、「サキニック」のグラスをカチンと合わせた。

「すっきりしてて、おいしーい」

 3人は、顔を見合わせる。それで十分。銘柄を選ぶハードルが高い客は、「おいしい」という理由からでいいので日本酒に目覚めてほしい。カクテルにこだわる狙いは、そこだ。

AERA  2015年2月2日号より抜粋