「ナッツ・リターン」事件で大きく注目を浴びている、韓国の財閥。その2世、3世は驚くべき待遇を受けているようだ。

 世界で大きく報じられた「ナッツ・リターン」事件。韓進(ハンジン)グループ会長の長女、大韓航空の趙顕娥(チョヒョナ)前副社長(40)が12月5日、ニューヨークで搭乗した自社機でナッツの出し方が悪いと激高、機をゲートに引き返させ、サービス責任者を降ろした前代未聞の出来事だ。その横暴ぶりに、韓国では怒りがおさまらない。

 乗務員をひざまずかせて謝らせたうえ、ファイルで乗務員の手の甲を突くなどの趙顕娥氏の暴行疑惑に加え、虚偽の証言を乗務員に強要して大韓航空が組織的に事件を隠蔽(いんぺい)しようとしていた疑いも出てきた。

 韓国で影響力をもつ市民団体「参与連帯」は趙顕娥氏を航空法違反などの疑いで告発。検察は事情聴取を始めた。企業、財閥のあり方を問う声が高まるなか、韓国国土交通部は大韓航空に運航停止か課徴金を科し、会社の体質を調査すると発表した。

 韓国の財閥への経済力の集中はすさまじい。サムスン、現代(ヒョンデ)自動車、LGをはじめ、上位10 グループの売上高はGDPの7割以上にのぼる。

 軍事政権時代に政財癒着によって成長した財閥は、民主化後も経済の自由化のなかで力を増した。李明博(イミョンバク)前大統領時代には規制緩和で事業は多方面に拡大。株主はオーナー一族で占められ、巨額の利益の大半は彼らと少数の社員が得ている。

 今回のような経営者のモラルハザードは、経営権が財閥3世に移ったことも大きいという指摘がある。苦労して事業を立ち上げた創業者、それを見て育った2世と比べると、恵まれた環境に育った3世は経験が決定的に欠けていると言われる。
 
 12月15日付の「ハンギョレ新聞」によると、主要15グループの財閥3世28人は審査もなく親の会社に入社し、平均3年、31歳で役員に昇進した。一般の大卒者が役員昇進まで22年かかるのとはあまりに違う。

 財閥の改革は国民の要求だ。朴槿恵(パククネ)大統領は、格差を解消し、公正競争を強化する「経済の民主化」を掲げて当選した。が、選挙公約は実現されていない。

「ナッツ・リターン」事件で浮き彫りになったのは韓国が抱えるあまりに根の深い問題だが、日系企業に勤務する韓国人女性(37)はこう語る。

「少なくとも『ナッツ・リターン』という、韓国社会で意識されてこなかった“パワハラ”を表す言葉が生まれた。これほど韓国のイメージを失墜させたのだから、パワハラに対する社会の目は今後厳しくなるのでは」

AERA 2014年12月29日―2015年1月5日合併号より抜粋