アエラにて好評連載中の「ニッポンの課長」。
現場を駆けずりまわって、マネジメントもやる。部下と上司の間に立って、仕事をやりとげる。それが「課長」だ。
あの企業の課長はどんな現場で、何に取り組んでいるのか。彼らの現場を取材をした。
今回はセブンファームの「ニッポンの課長」を紹介する。
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■セブンファーム 取締役 久留原昌彦(53)
4ヘクタールの農場には、トウモロコシが力強く空に向かって伸び、ジャガイモの白い花が咲いていた。
この千葉県富里市にある「セブンファーム富里」は、イトーヨーカ堂の直営農場だ。こうした農場は、関東のほか北海道、愛知、新潟にもあり、全国10カ所に広がっている。
久留原昌彦は、これらの農場運営を担う中核会社「セブンファーム」の取締役。といっても、イトーヨーカ堂での役職は、青果部のチーフバイヤー。つまり課長だ。1982年の入社以来、青果部門を歩み、30代半ばまで売り場に立った後、仕入れを任されるようになった。そんな久留原に農業参入の大仕事が舞い込んだのは、2008年のことだ。
「一緒に会社を立ち上げませんか」
富里市の農家に提案してまわったが、身構える人は少なくなかった。だが、あきらめず何度も足を運ぶ。ある日、生産者が「雨が足りない」と話すのを聞き、おかしいと感じた。さっきまで土砂降りの雨が降っていたのに。
「短時間降ってもダメ。全部流れちまう。少しずつ、ずっと降るのがいい雨なんだ」
そんな生産者の解説に相づちを打つ。やり取りを重ねるうち、距離が縮まり、08年、富里で直営農場第1号の開設にこぎつけた。
店の売り場にいた頃、野菜くずや古くなって捨てられる商品を見て、いつも「もったいない」と感じていた。セブンファームの取り組みには、そんな農作物の抱える課題解決の糸口がある。店から野菜くずや売れ残った商品を回収し、専用のリサイクル工場で堆肥にする。この堆肥を農場で使い、栽培された野菜を再び、店頭に並べる。まさに循環型の農業だ。
「小売りのプロだから、消費者のニーズを知っている。その知見を生産者と共有したい」
と久留原。不ぞろいの野菜も、味は一級品。生産者にも、消費者にもやさしい。それが目指す農業だ。(文中敬称略)
※本稿登場課長の所属や年齢は掲載時のものです
(ライター・岡本俊浩)
※AERA 2014年7月21日号