病院選びで大切なのは、医療技術の高さだけではない。入院した記者が感じたのは、サービスの重要性だ。
「なんで、私がこんな目に…」
1年ほど前、突然の入院&手術というトホホな体験をした私は、都内私立大学病院の病棟でやさぐれていた。
そんな中、毎日午後3時に病室のドアを、トントンとノックする音が響いた。最初は体力のなさで無視していたが、ひょこひょこ歩けるまでに回復したころに気づいた。地下の売店の従業員が「必要な物はありませんか」と、ノックして回ってくれていたのだ。
毎日3時が待ち遠しくなった。買い物する、という日常的なことができる幸せ。さらに普通食になるとメニューが選べるシステムだとわかり、食欲が戻ってきた。どれもささいなサービスだが、それだけでチャラ男風な主治医に抱いていた不信感まで払拭され、「この病院に入院してよかった」と思えた。
一般社団法人日本医療コーディネーター協会の川上憂子代表理事は、「病院選びはサービスも念入りにチェックすべきだ」と進言する。
「名医がいるとか、手術数が多いだけがいい病院とは限りません。どれだけ患者視点の看護やサービスをしてくれるかという点も見てほしい」(川上さん)
例えばチェックポイントは、こんな点だ。いくらきれいで広々とした病院でも、トイレが狭い、これだけで「患者視点の病院ではない」と、指摘する。
「患者さんは点滴をつないだまま歩くことが多い。設計の段階でトイレに点滴台と一緒に入ることまで想定していなかったのでしょう。患者さんにトイレのドアを半開きにして用を足せというのでしょうか」(川上さん)
がん治療のため、9回の入院を経験している都内在住のエミさん(56)は、医師の見立てを鵜呑みにするのではなく、専門家に相談してみることはもちろん、「入院を決める前に、病院を下見したほうがいい」という。
「病を知り、最初はパニックになりましたが、治療の内容が少しずつ理解できるようになってくると、病室は広いか、テレビが見やすいか、食事はおいしいか、面会時間はどうか、といった“病院生活の質”が気になりだしました。ストレスは、病の大敵ですからね」と、エミさんは力を込める。
※AERA 2014年8月18日号より抜粋