昨年総務省が発表した「就業構造基本調査」によると、介護をしながら働く「ワーキングケアラー」は、約290万人いる。介護をしている約560万人の過半数に相当する。
東レ経営研究所の渥美由喜(なおき)・ダイバーシティ&ワークライフバランス研究部長は、「現時点でも、夫婦双方の両親が存命だった場合に、50代後半の人が要介護の人を1人以上抱える確率は9割近くに達している。全員介護の時代は、もうそこまできているんです」と話す。
ワーキングケアラーの6割が40~50代で、管理職世代だ。
「経験を積んだ働き盛りの社員が、介護でごそっと抜けるようなことになれば、経営を揺るがすような事態」(丸紅人事部)
「育児との両立支援もこれからなのに、介護のほうに手がまわるほど、人的、経営的な余裕はない」という中小企業の声も聞いた。だが、「介護離職」の経験者が、今度は「離職しないために」社員が働きやすい制度づくりに取り組む事例もある。
「顔の見える規模の方が『人』に制度を合わせやすい。今後は、介護で大企業を辞めた優秀な人材が、両立しやすい会社に生まれ変わった地元の中小企業に集まる『逆流現象』が起こるかもしれません」(渥美さん)
大手企業では、ニーズの吸い上げと発信が始まったところだ。
積水ハウス(大阪府大阪市)は昨年春に、過去10年の自己都合退職者の退職理由を調べた。すると、6%の人が「親族の介護が原因」で辞めていることがわかった。介護休業の期間を1年から通算2年に延長した。さらに、回数の制限なく分割して取れるようにもした。対象になる家族も、同居や扶養の有無といった条件をゆるめた。
社員向け「介護セミナー」を実施している丸紅(東京都千代田区)では、12年から「介護個別相談会」の定期開催も開始し、毎回、募集人数を上回る申し込みがある。最近、人事部に直接相談する社員が出てきたと、同社人事部ダイバーシティ・マネジメント課長の許斐(このみ)理恵さんは話す。
「人事部から介護について継続的な発信や情報提供をすることで、『介護のことは普通に相談していい』『仕事と介護は両立できる』という意識を浸透させていきたい。介護のことを気兼ねなく話せる風土がつくれれば、まわりに相談したり制度を利用したりしやすくなる」
※AERA 2014年8月4日号より抜粋