会場の隅で遊ぶわが子の傍らに座り込み、憲法や国際法の配布資料を読み込む母親。どの親の表情にも「知識を得て子どもを守りたい」という本気がにじんだ/東京都世田谷区(撮影/編集部・塩月由香)
会場の隅で遊ぶわが子の傍らに座り込み、憲法や国際法の配布資料を読み込む母親。どの親の表情にも「知識を得て子どもを守りたい」という本気がにじんだ/東京都世田谷区(撮影/編集部・塩月由香)

「女性の活用」を積極PRする安倍政権が、その女性を敵に回している。原発事故で不安をかき立てられた母親たちが、沈黙を破り、再び立ち上がる。

 2歳の長女を連れ、ママ友と会場を訪れた都内在住の専業主婦Aさん(37)は、社会問題の勉強会に参加するのは初めてだった。「友人に誘われたから」「夫の帰りが遅い日だったから」と、言い訳するように参加した理由を並べた後、こうつぶやいた。

「もう、これ以上、国のとばっちりを受けたくないんです」

 Aさんが参加したのは、7月中旬、東京都世田谷区の区民ホールで開かれた勉強会「ちょっと待って!『集団的自衛権』ってなに?」。この地域の親たちが企画した。平日の夜にもかかわらず、さまざまな思いを抱えた参加者が会場を埋めた。親子連れも多い。

 集団的自衛権の閣議決定から約2週間。2時間の勉強会の内容は、国際法と憲法だ。弁護士が解説する大学の講義のような話なのに、一日の仕事や家事で疲れもあるはずの人たちに居眠りをする様子はない。どの顔も真剣そのもの。

 Aさんがこれまで、社会的な問題にまったく無関心だったわけではない。東日本大震災を機に彼氏と結婚したが、それまで単なる“趣味”だった「食」と「健康」は、身を守る“闘い”に変わった。きっかけは、東京電力福島第一原発の事故だ。独身時代から、口に入れるものから身につけるものまで、体に良いと聞いて買い求めた天然素材商品が家にあふれていた。

 事故後はさらにミネラルウオーターで米を研ぎ、できるだけ外に出ないようにして外出時はマスク。好きだった海へ出かけることもなくなり、魚を食べるのも控えた。娘が生まれると、西日本産の粉ミルクや食材を買って与えた。

 ただ、そんな徹底した放射能からの“防衛”も、時が経つにつれて意識が薄れていった。娘に与える粉ミルクも、成長して飲む量が増えると、家計のやりくりもあって割安なものと「ミックス」するように。そのうち「どれも一緒」になった。

 あきらめが大部分を占めるようになった心を、再び揺さぶったのは、やはり原発だった。今年に入って再稼働の動きが、強まっている感じがした。

「電力は十分賄えているという話を読みました。日本は地震国で、またいつ地震があるか分からないのに。何のための再稼働なのか」

 怒りがよみがえった。そんなフツフツとした気持ちを、さらにいらつかせたのが集団的自衛権のニュースだ。しかし、インターネットで調べてみても、言葉が難しすぎてよく分からない。新聞やテレビでも解説してはいるが、原発事故のときに抱いた不信感をぬぐい去れず、ママ友から勉強会に誘われ、自然と足が向いた。

「この国が何をしたいのか疑問。すべてが不透明。誰も教えてくれないなら、今回は自分で勉強しなければ」

AERA 2014年8月4日号より抜粋