「召集令状か」とネット上をざわつかせた自衛官募集のダイレクトメール(DM)。どこから名簿を入手したのか。調べると、情報源は住民基本台帳だった。
自衛官募集のDMは、7月上旬から高校3年生の家庭を中心に届いている。安倍晋三首相が、集団的自衛権の行使容認を閣議決定したのが7月1日。同じ時期のDMと閣議決定の組み合わせは、高校生やその親たちの間に波紋を広げた。ツイッターなどに、こんな言葉が書き込まれている。
<おかしいやろ。このタイミング><これが赤紙と呼ばれるアレか><集団的自衛権で志願者が減っているのか>
本当に閣議決定を受けてDMを送ったのか。防衛省報道室の担当者は、こう言って否定する。
「7月1日は高校生らの就職活動が解禁になる日。同じ日に閣議決定が行われたのは、政治スケジュールによる偶然です」
しかし、そもそもなぜ自衛隊は、高校3年生や卒業生の名前や住所、生年月日を知っているのか。この点を防衛省報道室にたずねると、こんな答えが返ってきた。
「自衛官の募集は、首長が実施する法定受託事務です。従って自衛隊法などに基づき、自治体の持つ住民基本台帳から、氏名、生年月日、性別、住所の4情報の開示を受けることができます」
つまり、法律に基づき、個人情報をやり取りしているというのだ。確かに各自治体は、公的で正当な理由があれば、住民基本台帳の閲覧を認めており、だれがどんな目的で閲覧したのか、広報などで公表もしている。
募集業務は、自治体単位で全国にある自衛隊地方協力本部(地本)が担っている。DMはすべての高校3年生が受け取っているわけではない。送付先の基準でもあるのだろうか。
東京地本に電話で問い合わせてみた。すると、「陸上幕僚監部を通してほしい」。言われた通りに連絡すると、陸上幕僚監部は「確認する」。しばらくしてかけ直すと、今度は「防衛省が答える」。そして、防衛省からこんなメールが届いた。
<直接東京地方協力本部にご取材ください>
どういうことなのか、防衛省報道室に聞くと、「募集業務の直接の担当に聞くのが、一番だと思います」。
午前10時半に東京地本に電話してから、防衛省のメールが届くまで約9時間。たらい回しの末、東京地本に再び聞いてみた。答えは次の通りだった。
「本年度の送付対象は都内の高校3年生約10万人。案内が届かない家庭があるのは、作業時間の制約などで、自治体から個人情報を取得できなかったり、発送できなかったりした分があるからです」
※AERA 2014年7月28日号より抜粋