首相官邸は「限定容認であることをじっくり説明すれば、国民はわかってくれる」(自民党関係者)とみているというが……/7月1日夕の臨時閣議 (c)朝日新聞社 @@写禁
首相官邸は「限定容認であることをじっくり説明すれば、国民はわかってくれる」(自民党関係者)とみているというが……/7月1日夕の臨時閣議 (c)朝日新聞社 @@写禁
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 安倍政権が、ついに「集団的自衛権」の閣議決定に踏み込んだ。国民を安心させようとする言葉の裏には、現実が巧妙に隠されている。

 首相官邸での会見で、安倍晋三首相はプロンプターに映し出される原稿を読み上げた。

「現行の憲法解釈の基本的考え方は、今回の閣議決定においても何ら変わることはない」

 万全の備えをすることが抑止力になる。憲法が掲げる平和主義はこれからも守り抜く──。安倍首相は、いままでと“変わらない”ことを繰り返し強調したが、憲法9条の解釈を根本から覆しておいて、何をか言わんや、である。

 集団的自衛権の行使容認が閣議決定された7月1日夕、首相会見前から、反対する人々が官邸前の沿道に連なり、抗議の声を上げた。共同通信の緊急世論調査では、容認反対が54.4%と賛成の約35%を大きく上回り、内閣支持率も下落した。こうした世論の声も、安倍首相にとっては「決断には批判が伴う」という自身の言葉への確信を強めるものでしかないのだろう。

 解釈改憲が必要だとする安倍首相は、その根拠として(1)「国際情勢の変化」、(2)「エネルギー確保」の観点を挙げる。だが、それは本当だろうか。

(1)は端的に言えば、覇権主義を強める中国への抑止力をいかに持つか、という話だ。国民の多くもそう受け取っているだろう。ところが、元外務省国際情報局長の孫崎享氏はこう語る。

「今回の話は、実は、邦人救護の問題でも尖閣問題でもない。米軍の戦略のために自衛隊を使う、というのが実態。2005年に合意した『日米同盟:未来のための変革と再編』の重点分野に〈国際的な安全保障環境の改善のための取組〉とありますが、その流れを実現させたものです。米国が具体的に考えているのはアフリカと中東。中国との軍事紛争は、はなから考えにありません」

 さらに(2)は、中東のホルムズ海峡の海上交通路(シーレーン)が、イラン紛争などで封鎖され日本のエネルギー供給に支障を来すような状況が想定されている。従来解釈では「武力行使にあたる」として禁じられてきた機雷除去が、今後は「(『我が国の存立が脅かされる明白な危険』などの)新3要件を満たす場合に限り、可能と考える」(3日夜、NHK番組での菅義偉官房長官の発言)という。

 しかし、この事例も国民に納得感を与えるための“詭弁”でしかない。

「集団的自衛権があるから、すぐに行くという話ではない。シーレーンはどの国にとっても重要。むしろ原油の国内備蓄は6カ月分以上あるので、その間に国連の集団安全保障体制の中で、いかに実戦行動を避けて貢献するか決めるのが現実的です。湾岸戦争でのPKO協力法のように個別具体的な法律を積み上げるべきで、あやふやな政治判断はかえって危険です」

AERA 2014年7月14日号より抜粋